(種村有菜/集英社りぼんマスコットコミックス・全7巻)
12歳の神山満月は、喉に肉腫が出来る病気のため、声帯を取る手術を勧められている。だが、彼女は幼なじみの英知くんとの約束でもある歌手になるという夢のため、手術を拒み続ける。
ある日、満月の許に死神コンビ、タクトとめろこが現れ、彼らは「満月の寿命はあと一年」と宣告する。しかし、天真爛漫な性格の満月はタクトの心を動かし、16歳の少女の外見と、健康な身体に変身することが出来るようになる。それを使って歌手「フルムーン」としてのデビューを果たす満月。
ライバル、躓き、周囲の人々の想い。さまざまなものを纏いながら歌い続けるフルムーンのエンジェリック・アイドル・アドベンチャー。
満腹!
この本の読後感を表すなら、この一語に尽きます。
病弱と元気を足して2で割ったようなあっけらかんとしたヒロイン、満月ちゃんはもちろんとしまして、気になるナイスガイ、死神のタクトと、彼に一途に想いを寄せるナイスバディ死神・めろこの「ねぎラーメン」コンビ、あるいは敵役の若松円ちゃんに至るまで、それぞれにきっちりとしたエピソードが用意されてまして、厚みのあるドラマを展開。少女マンガを読んだー!という満腹感を味わえるんですね。
しかし、ドラマの厚みだけでは、満腹感と同時に胃もたれ感を感じてしまうのも事実。しかし、この作品はさまざまなサイドメニューでこってり感を軽減すると同時に、さらに120%の満腹感を与えてくれるんですね。
その筆頭はやはり種村さんの必殺技とも言える画面づくり。トーンを多用した華やかな画面は夢見る乙女から30歳過ぎて少女マンガに夢中になってるあやしいおじさんに至るまで満遍なくノックアウト。満月ちゃん(フルムーン)、めろこ、円ちゃん、それぞれの女性キャラも超絶かわいい&個性満点で、「萌え〜」「かわいい〜」「もうだめ〜」「萌え〜」「かわいい〜」「もうだめ〜」と、読み通す間、リフレインして悶絶してしまうほどのビジュアルインパクトを発揮してくれます。
もひとつ、コメディ要素もチェックしたいポイント。シリアスの隙間に間のいい小ネタを突っ込んでるから、ドラマティックなエピソードでありながら、リズミカルに読み進められるんですよね。天然系の満月ちゃんとツッコミ役のタクトの会話も善哉善哉。
ドラマ×萌え×コメディ×華、少女マンガに求めたい要素をすべて、ハイレベルで満たしている傑作に、読後即KO必至です。
メイド萌えだとか妹萌えだとか、世の中さまざまな萌えのジャンルがあるわけですが、病弱少女というのもなかなか根強い人気のあるジャンル。いや、萌えなんて言葉を持ち出すまでもなく、「薄幸の美少女」というものはいついかなる時代でもオトコの保護欲をそそり続けてきたのです。
てなわけで全国病弱少女党長野県支部が推薦する新世紀の旗手、黒髪縦ロール病弱少女お天気系、神山満月ちゃんの紹介に突入、するぞーっ!!
とにかく第一話から健気さをばりばりと発揮。喉に肉腫が出来ていて、声を出すのが辛いのに、幼なじみの英知君との約束のために歌手を目指そうとするその健気さ。声帯を取る手術をして生き長らえるより、歌いたいがために手術を拒絶して死と向かい合うその苛烈さ。来る。来る。来ますねぇ、こういうポイント。
もちろんスレンダーな体型&だぶだぶパジャマというポイントも忘れずに抑えてあります。もぅ、最高ーーーーーーーーーーーーーーーーーぅ!ですね!
死と向かい合いながら、死神コンビ「ねぎラーメン」と仲良くなってしまうあっけらかんとした強さも高ポイント。辛いときもけして涙を流さないけなげさも、思わず彼女の境遇を忘れてしまうほどで、そこがかえって病弱少女属性のハートをど真ん中から射抜いてくれるんですよね。
満月ちゃんが変身した後のアイドルヴァージョン、フルムーンも魅力的なヒロイン。いや、中身は満月ちゃんのまんまなんですけど。
とにかくその魅力はそのビジュアル。まさに月光のような透明感をもったその横顔にはノックアウト必至。種村さんお得意の華のある画面づくりとの相乗効果で、インパクト十分な美しさで魅了してくれます。第2話、「天使」フルムーンの生誕シーンは神々しいまでのまばゆさが感じられますね。
鳥肌が立つほどの美しさを備えたスーパーアイドル、そんな感じです。
脇役連に目を移せばヨッパライのおきにはやっぱりヨッパライ、ということで、フルムーンのマネージャー、花飾結菜こと大重正実さん。きりりと首筋で揃えられた髪にスーツ姿で、いかにも「やり手のお姉様〜」ってな感じで登場しながら、どこかおやじくさかったり、酒飲みだったりでいい味をバリバリと発揮。フルムーンとは歳の離れた姉妹のような、楽しいやりとりを見せてくれます。
トドメはタクトとめろこの「ねぎラーメン」コンビ。それにしてもなんとかならんのか、このネーミング。
少女マンガのヒーローらしく、おいしいところ取りまくりのハンサム猫男・タクトもいろいろドラマを秘めたナイスガイではありますが、やっぱり気になるのはめろこ・ユイちゃん。おへそ+網タイツ+ガータベルトというセクシーなコスチュームに初登場時から骨抜きにされちゃいました(笑)。タクトに告白してはかわされ、タクトに告白してはいなされ、タクトに告白してはふられる、その連続玉砕魔っぷりも彼女の魅力をい〜感じでアップしてくれてますね。
絵柄、舞台、画面作り、どれもど真ん中の少女マンガ。それも濃度こってりの剛速球なので、打ち返す自信のない方は見送っていただいたほうが無難かな、という気がしますね。
もちろん、打ち返す自信がある方は、フルスイングでお楽しみ下さい。
2002.8