(ひぐちアサ/講談社アフタヌーンKC・1〜28巻)
三橋廉は中学時代、球速がなく負け続けたにもかかわらず、祖父のコネをバックにエースナンバーを他人に譲らなかった男。
彼はそれゆえに不協和音渦巻くチームをあとにし、野球部のない県立高・西浦高校に入学する。
そこで廉が出会ったのは、野球に類まれな情熱を注ぐ女傑・百枝と、廉の持つ才能に気づいた捕手・阿部隆也だった。
そして廉は西浦の新設野球部で再びマウンドに立つことになるが、過去のトラウマから弱気がすぐに表面に出てしまう。
百枝監督は一計を案じ、最初の練習試合の相手に、廉のかつてのチームメイトが多く所属する三星学園を選ぶのだった。
面白い、面白いとは聞いていましたが、ほんまに面白い。
気弱なエース、不遜なキャッチャー、怪しい女監督の登場で読者を引き付けると、あとは一気。
一球一球に息を飲む試合描写と、そこにまつわる人間関係の描写の緊張感で読者をぐいぐいと作品世界に引きずり込み、ディテール描写で厚みをつけ、サブキャラの動きでテンションを自在に操る手腕は見事の一言。
1巻を読み終えた頃には、あっさりと作品のとりこになり、何度も何度も読み返してしまいました。
実際の試合のようなダルさやマンガらしい脇の甘さは希薄で、これは小説やルポルタージュのような重層感。それでいて視点はけして三橋と阿部のバッテリーからそらされる事がないので、けして堅くも、読みにくくもない。
これは男のコが夢中になるマンガとして、理想的なバランスですよね。
まあ、正統派の野球マンガなので、萌えがないとか萌えがないとか萌えがないとか、いろいろいいたいところは出て来るかもしれませんが、読んでしまえばそんなことが気にならなくなってしまうのは間違いなし。
野球を読む、キャラクターを読む、人間関係を読む、物語世界にどっぷりとはまって手に汗握れる、ほんとうに面白い野球マンガです。
主人公は三橋廉。多彩な変化球と高校生離れしたコントロールの持ち主ながら、中学時代、野球部の人間関係がうまくいかなかったために超絶的に引っ込み思案で、気弱。
なんとも野球マンガのヒーローらしからぬスペックの持ち主で、そのウダウダっぷりには読んでるこちらが切れそうになる程。
その相棒となるキャッチャーが阿部隆也。こちらの方がピッチャーに向いているんじゃないかと思えるような強気のタイプなんですが、ちょっと腹に一物を抱えているような雰囲気あり。
どっちにしても、さわやかたるべき高校野球マンガのヒーローにしてはクセがあって、正直なところ好感がもてるとか、シンクロ出来るという感じではないんですが、弱気のエース&策士の捕手というコンビはなかなかに緊張感があって、読んでいるとこのふたりのキャラクターにぐいぐいと引っ張り込まれちゃうんですね。
さてさて女性キャラも気になるところ。
マネージャーの篠岡千代ちゃんに関してはさらっと流しまして、やはり注目はパワー系女監督・百枝サン。
黒髪ヒロインなので、いつものこのサイトのノリなら即座に「萌え〜」とか言っちゃうところなんですが、いきなり甘夏を素手で握りつぶす豪快さに、萌えのもの字も口から出ることなく、ただただ唖然呆然。
いい意味でも悪い意味でもこの作品のカラーを決める女傑として、目が離せない存在です。
萌えがないとか(こればっかだな)、主人公がウザいとか、ディテールがうるさいとか、細かいところに目を向ければいろいろ気になるところがありますが、基本的にテンションで引っ張るマンガなので、そういう部分も気にせずぐいぐい読めてしまいます。
とはいえ、やはりターゲットは野球好き、野球マンガ好きの人かな。キャラにアクがあり、デイテールにも目を配った作品なので、万人向けというよりはある程度このジャンルにこだわりのある人向きだと思います。
2005.2