(椎名あゆみ/集英社りぼんマスコットコミックス・全1巻)
沙漠の王国の王宮。月夜の夜、そこに忍び込んだ盗賊の娘・シェラは王宮の屋根の上で満月を見つめる青年と出会う。
その青年は孤高の国王・アトラス。
彼はシェラの卒直さに惹かれ、シェラもまたアトラスに好意を持つ。しかし、王と盗賊の恋など叶うはずもなく、盗賊団が再び王宮に忍び込む夜がやってくる……
山椒は小粒でもぴりりと辛い! そんな感じの中編ですね。
テーマは盗賊の娘・シェラちゃんと沙漠の国の王・アトラスの、身分違いの恋。
身分違いの恋、なんてーと、「セレブ学園の生徒会長と、間違えて入学してしまった平民女生徒の恋」なんてあたりが少女マンガの定番なわけですが、この作品ではアラビア風の世界を舞台に、ファンタジックなムードを醸し出しているのがポイント。
描くのは「りぼん」を代表する名手・椎名あゆみさん。読者を翻弄するような展開の早さは相変わらずで、シチュエーションの異色さと相まって、「この先はどうなるの? シェラとアトラスは幸せになれるの?」と、まさにお伽話の続きをせがむように、はらはら、わくわくさせられてしまうのです。
展開が速い分、語られないエピソードが多くて、そこをあれこれ想像しながら2度、3度と本を読み返してしまうのもおいしいポイント。
中編らしく、まっすぐに恋心を描いた好作品。シェラちゃんの一途な恋と多彩な表情にときめきつつ、お伽話にのめり込みっぱなしの140ページ。少女マンガらしい少女マンガ、ロマンスらしいロマンスにどっぷりひたれる、珠玉のお伽話です。
「アラビアンナイト」に出てくる物語の紡ぎ手・シェラザードから名付けられたのがヒロイン・シェラちゃん。
夜を舞う盗賊と、昼に舞う舞姫というふたつの顔を持つヒロインにふさわしく、多彩な表情が魅力的ですねー。
無邪気だったかと思えば大人っぽく、セクシーだと思えば清純だったりする、そんなところに一気に心奪われてしまう魅惑の舞姫。
しかし彼女の素顔はやっぱり、身分違いの恋人・アトラスの前で頬染める、恋する乙女のせつない笑顔。
叶わぬ恋、せつない恋と知っていても一途に相手を想い、あきらめずに前を向こうとする姿がせつなくて、胸がきゅーんっと共鳴してしまいますね。
後半に収録されているのが短篇「女神様のしっぽ」。
こちらも好作品ですよ〜。
気さくで明るく、だけど肝心なところで引っ込み思案な黒髪ヒロイン・なっちゃんが強烈に魅力的。最後の一歩、いや最後の半歩が踏み出せないヘタレっぷりが親近感大、な感じですね。
「お伽話−」以上にまっすぐなラブストーリー。少女マンガらしい恋愛ものとして、要チェックな短篇です。
アラビア風の世界観で目先を変えているとはいえ、少女マンガらしさをたっぷり詰め込んだピュアラブストーリー。少女マンガ中級者以上向けの作品だと思います。
このシリーズでは以前に「お伽話をあなたに」という作品がリリースされていますが、タイトルは同じでも世界観もキャラクターもまったく別物なので、注意が必要です。
2006.9