(種村有菜/集英社りぼんマスコットコミックス・全11巻)
乙宮灰音は、毎日バイトに明け暮れる15歳。資産家の乙宮家の養女なのだが、倒産寸前の乙宮家具を建て直すべく、少しでも家計を助けようとがんばっている。
そんな灰音が通うのが名門・帝国学園。ここでは学園への貢献度に応じ、生徒を「金」「銀」「銅」にランク付けしているのだが、彼女はもちろん「銅」。そして、彼女が憧れるのが学園唯一の「金」、皇帝と呼ばれる生徒会長の東宮閑雅だった。
なんとか手の届かない存在の閑雅に近づこうとする灰音だったが、生徒会敵対勢力「外道」が朝礼に乱入した事件で、元ヤンという過去が明るみになってしまい、クラスで孤立してしまう・・・
いつもながら、フリガナをつけないとちょっと読めないタイトルの作品をリリースしてくれる種村さんの最新作は「紳士同盟†」。しんしどうめいクロス、と読みます。
種村作品には珍しく、ファンタジー設定ではないんですが、それじゃあ良く言えば地に足のついた、悪く言えば華のない、平凡な作品になっているかと言えば、そんなはずもなく。
舞台は超・お坊っちゃま&お嬢様学校。なにせ登場人物の苗字が、乙宮 東宮 天宮
一ノ宮 辻宮 立宮 香宮と、「このマンガはもしや宮内庁御用達なのか?」「次には森ノ宮とか難波宮とか新今宮とか出て来るのか?」と読者を無用の混乱に陥れてしまう程に「宮」のつく苗字のオンパレードで、ただごとではないセレブ感を演出しちゃっています。
セレブな雰囲気に、謎めいたキャラクターが揃い、元気でまっすぐなヒロインとマッチアップ。学園ものの持つ等身大のわくわく感と、種村作品らしいファンタジックでノーブルなわくわく感が画面の上でブレンドされて、他の作品にはない、華やかさに胸が躍りだします。
もう、何かが始まる、何かが起こるという期待感が画面を覆っていて、ストーリーを追うのが楽しくて楽しくたまらない、そんな感じ。
灰音ちゃんの笑顔に惹かれるままに、華のあるアドベンチャーに誘われ、あっと言う間にストーリーに夢中になってしまいます。
桜木町では「浜のシンデレラ」の異名をとった元ヤン。当時は「よろしく」も漢字で発音していたらしい。高校デビュー。苦学生。学校の下働きのバイトをしている。メイド調の下働き用ユニフォーム+みつあみのコンビネーションがフルスロットル悩殺級。養女。義弟あり。誤字っ子。油断してるとすぐに誤字を発する。
これでもか!というくらいのスペックが詰め込まれたお嬢様学校の1年生。
それが当作のヒロイン、乙宮灰音ちゃんであります。
とにかく一生懸命で、曲がったことが大嫌いな直情型。
遠い存在の皇帝にも好きなら好きだと言っちゃうし、その皇帝がやっていることが間違ってると思えば、間違っていると言っちゃう。そしてアクションシーンでは短いスカートを翻らせての大活劇。
その危ういまでのストレートさが清々しくて、ぐいぐいと周りの空気の色を変えて行っちゃう、牽引力抜群のヒロインですね。
元ヤンで、直情径行型と言えば「ちょっと怖いかも・・・」という印象を受けがちですが、そこはやっぱり少女マンガのヒロイン。きらきらの瞳に、風を孕んだ長い髪、満面の笑顔が印象的な、等身大の美少女で、これにはもう萌えます惚れますときめきます。
読者をひきつける引力をたっぷり持った「浜のシンデレラ」に夢中になっちゃうのです。
個人的に萌え度ナンバーワンなのがまおらちゃん。不思議ちゃん系で、どこがいーのかと聞かれると返答に困る気がしないでもないんですが、にっこり笑ってぷっすり刺す、みたいな二面性が垣間見られるあたりがベビーフェイスのいいアクセントになってて、いいんですよね〜。腹黒、ってわけじゃなく、いたずらっ子な感じの二面性で、そこがなんとも気になります。
対照的にクールなぶっきら系、「紫陽花の君」こと天宮潮ちゃんにも惚れ。
第2話のあのシーンでは「潮ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ?」と思わず叫んでしまいましたよ。
黒目がちの吊り目から光る、宝石のように硬質の視線と、灰音ちゃんにだけ見せる笑顔とのギャップがたまりません。
男性キャラでは、黒髪眼鏡保健医・成宮千里がなかなか気になる存在。微エロで飄々としていて、いかにも笑顔の裏に何か隠してそうなキャラクターが、黒髪眼鏡保健医の典型という感じで嬉しくなってしまいます。
最後に皇帝・東宮閑雅。
キングとか王子とか呼ばれるキャラクターは今までもいましたが、皇帝ってのはすごいですね。ただごとじゃない。世界史を繙いても、皇帝と呼ばれたのってナポレオンとミハエル・シューマッハーと、シンボリルドルフぐらいしかいませんからね。これはすごい。
そのルドルフ君、影のあるキャラなんだけどもそれに徹しきれてない、という感じの青年で、正直、男性読者に好感持たれるタイプじゃないとは思うんだけど、その屈折具合にはそれなりに共感出来る部分もありそう。今後に注目したいヒーローです。
種村作品の通例ではありますが、少女マンガらしい華やかさがバリバリの作品。少女マンガに耐性のある人向きの作品と言えますね。
余談ではありますが、キャラづくりが濃い目で、百合? 薔薇? 姉弟? と、りぼん的にぎりぎりっぽい要素をたっぷりと含んでいるので、そっち系統に興味ある方には楽しい作品かも。
いろいろ二次創作的な方向で楽しんでみたい感じもする作品です。
2005.2