スローループ

(うちのまいこ/まんがタイムKRコミックス・1〜3巻)

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Story

ひよりは3年前に父を亡くし、母とふたり暮らし。今は日々海に通いひとり、父が教えてくれたフライフィッシングをしている。
高校入学を控えた3月、いつものように防波堤で釣りをしていたひよりの前に現れたのは、ひよりと対照的に活発で好奇心旺盛な少女・小春。なんと彼女は父の再婚相手の連れ子だった。
猫のように孤高のひより、犬のように人なつこい小春、ふたりの出来たて姉妹は一緒にフライフィッシングをしながら少しずつ絆を強めていく。

Impression

えー。多分このサイト開闢以来はじめてとなる釣りマンガのご紹介です。
父親が釣り好きでしてね。子供のころは連れられて河へ海へと釣竿を持って出かけたりもしていて、釣りって身近な存在だったんですが。
学生の時に学友と七ヶ浜の防波堤に根魚釣りに行ったときにうっかり腰をいわしてしまってからは、竿を握ることもなくなってしまってたんですが。
超久々に、「釣りっていいなぁ」「釣りに行きたいなぁ」と思わせてくれたのがこのマンガでした。
活発で物おじしない、釣りはシロートな義姉・小春ちゃんと、引っ込み思案で大人しいけれど、釣りは玄人はだしな義妹・ひよりちゃんのコンビが、海で、船で、渓流で魚を追いかける物語。大自然の中で魚を追いかけるシーンの数々はアクティヴかつダイナミックで、画面を見ているだけで胸が高鳴ってきます。その一方で秘密の灯台へ続く道だったり、樹下のボートでの雨宿りだったり、丁寧に描かれた背景とともに挿し挟まれるシーンにはファンタジックでリリカルな雰囲気もあって、それらのシーンが「釣りっていいなあ」「アウトドアっていいなあ」という気持ちにさせてくれるのです。
もちろんマンガとしても面白く、かわいらしいことにかけては水準以上。ナヴィゲーター役のひよりちゃんが釣りに関する蘊蓄やエピソードを丁寧に教えてくれるのに対し、シロートの小春ちゃんがストレートにバッサリ切り捨てる、そのかけあいが面白くてついついくすりと笑ってしまいます。
そんな作品のいいアクセントになっているのが、小春ちゃんとひよりちゃんが、親同士の再婚で義姉妹になったばかりだ、ということ。新しく家族になったぎこちなさとか、ふとした時に甦る亡き肉親の想い出とかが、作品にしっとりとした気配を漂わせるスパイスになっていて、そこが家族の物語、あるいはホームコメディとしての深み、手応えになっているんですよね〜。
釣りってどこか非合理的だから、難しくてうまく行かないから面白い。っていうことが家族のことにも通っているようで、そんなところにぐいぐい惹き込まれて、いつの間にか作品世界から抜け出せなくなってしまいます。

Hiyori Minagi & Koharu Minagi

この作品の語り手役となっているのが、黒髪にグレーのハンチングが似合う海凪(旧姓・山川)ひよりちゃん。
クールでボーイッシュなアウトドア少女! という感じですが、その実寡黙でちょっと引っ込み思案な女のコ。子供のころはいつも、今は亡きお父さんの後ろに隠れるようにしてついて歩いていて、今もまたお父さんから教えられたフライフィッシングを、ひとり海で続けている孤独な女のコなのです。
だけど釣りが好きなことにかけては人一倍、小春ちゃんに釣りを教えるときには目が輝きまくっちゃいますし、ロッドを持たせれば多彩な表情を見せる女のコ。小春ちゃんも「ひよりちゃんが釣ってる姿見てるだけで超楽しい」って言っちゃうくらい、釣り師姿がサマになっていて、かっこいいんですよね〜。だけどときに、「小春が釣りを嫌いなったらどうしよう」とか心配しちゃったりもして、そんな釣りバカっぷりがなんともチャームポイントになってるのです。
ひよりちゃんと対照的に、天真爛漫な活発少女が、親同士の再婚でひよりちゃんの姉になる海凪小春ちゃん。
いきなり3月の海に、防波堤からスク水で飛び込もうとする無謀な行動力を披露する一方、料理上手な一面を持っていたりして、いろんな意味でひよりちゃんと姉妹陰日向になる存在なのです。
釣りに関してはシロートな分、餌のイソメを「ホラーゲームに出てくる雑魚敵みたい」とか、イワナを塩焼きにすれば「火あぶりの刑」とか、泳がせ釣りを「美人局釣り」とか釣りに関する発想がダイレクトかつアヴァンギャルドでこの作品のヒロインであると同時にいいムードメーカーであり、釣りビギナーな読者への案内人のような役割を担ってるんですね。
細かいことは考えない、フリーダムな自己中心娘に見えて、その実お母さんと弟を突然失った悲しみをおくびにも出さない芯の強さと、常に妹のひよりちとゃんに寄りそう優しさを併せ持った女のコ。そのギャップもまた小春ちゃんの魅力なのです。

Charactor

ひよりちゃんの幼なじみで、釣具店の看板娘が吉永恋ちゃん。看板娘と言っても表情若干薄めですけど。感情若干ドライですけど。
釣具屋の娘で、釣りの知識は豊富な当作品のナヴィゲーター役。でありながら、釣具店は仕事と割り切って、自分は釣りの世界から距離を置いているっていうのが面白いですね〜。小春ちゃんとはちょうど対照的なキャラクター。釣りバカが極まっちゃった自由人のお父さんとの距離感が絶妙で、ここがこの作品のいいアクセントと感じられます。
2巻から登場するのは釣り船屋「つり福」の福元二葉ちゃん、小学5年生。外で遊ぶのが大好き、もちろん釣りも大好きで、男のコとも一緒に遊んじゃう活発な女のコ。でも「こんな私、女子の中で浮いてるかも」とか悩んじゃう多感なお年頃なんですよね〜。でもロッドを握らせればやっぱりサマになっていて、凛とした表情がなんとも魅力的な女のコ。ひよりちゃんをちっちゃくした感じの内気さが、釣りの時のイケメンっぷりと好対照です。

Guide

「釣りコミック」ではありますが、そこはきらら作品、ディテールはあくまで雰囲気程度、味付け程度なのでガチの釣り知識を求めて読むと盛大に肩透かしを食うことになります。
かといって直球の「きらら」系かというと、女のコ同士のキャッキャウフフ要素、もっというと百合要素というだけでなく、ホームドラマ的な要素もあって「読む」要素が入って来てますね。
全体的に穏やかなムードでありながら、アウトドアシーンの解放感はなかなかに絶品。かわいい女のコを愛でながら解放感を味わいたい、ストレスを発散したいという欲求にマッチしています。

2020.8