星屑テレパス

(大熊らすこ/まんがタイムKRコミックス・1巻〜)

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Story

小ノ星海果は内気で、他人と話すことがとても苦手な、孤独な少女。だけどもその胸の中では、宇宙に行って宇宙人とテレパシーで意思疎通が出来れば言葉がなくても仲間が、居場所が出来るはずと信じている。
そんな海果の前に現れたのが「宇宙人」と自称する謎の少女・ユウ。彼女はおでことおでこをくっつけて心を読み取る「おでこぱしー」という能力で、海果の中に秘められた様々な思いを読み取って見せる。
宇宙に行きたい海果と、宇宙船が故障して宇宙に帰れないユウ。ふたりはロケットで地球から飛び出すことをめざし、歩き始める。

Impression

大熊らすこさんは、前作「ハッピーセピア」のときから注目していたマンガ家さん。
「まんがタイムきらら」誌で本作の連載がスタートしときから、当然注目していたわけなんですが。
モノローグばかりでセリフがほとんど出てこないほどに引っ込み思案な海果と、宇宙人と名乗る不思議で元気な女のコ・ユウの出会いはまさに素敵なケミストリ。
純度100%のファンタジーにも、手応え100%のリアルなドラマにもなりそうな、あったかくて前向きな物語にも、優しくて少しせつない作品にも、どこへでも飛んでいけそうなシチュエーションにまさに心を射抜かれました。第1話を読んだ時から、「この作品、どこに着地するんだろう」って思わせる作品なんて、そうそうありませんよ。
この作品を特徴づけるのは、なんといっても「おでこぱしー」。おでこ同士をくっつけると、相手の考えていることが分かるというユウの特殊能力なんですが、海果とユウがおでことおでこをくっつける、そのヴィジュアルだけでドキドキしちゃいますし、海果がユウに「おでこぱしー」で気持ちを読み取ってもらうことをきっかけに少しずつ歩みだし、少しずつ世界を広げていくきっかけになっている、その部分が「いいな〜」と思えるんですよね。
ストーリーだけをなぞれば、引っ込み思案な少女が突然現れた不思議な少女と出会い、心を開いて世界を広げていくありがちなガール・ミーツ・ガール、どこかでみたようなハートウォーミングストーリー、ってことになるんですが、そこに宇宙とか星空とかあるいは忘れられた灯台とか、リリカルでファンタジックなキーワードをちりばめ、画面はかわいくポップにデコレイト。どこをとっても前に進む元気さ、楽しさ、温かさが感じられて、そのへんが「星屑テレパス」を「星屑テレパス」たらしめているんだな〜、と思える、本当に素敵な四コマです。

Umika Konohoshi

極度のあがり性で人とうまく話すことが出来ず、言葉がスムースに出なくて真っ赤になって黙っちゃう、不器用で引っ込み思案な女のコ、それが本作品のヒロイン・小ノ星海果ちゃんです。
内気なヒロインは今までにもいろいろ紹介してきましたが、第1話に出てくるのはほとんどモノローグばかり、セリフがあるのはたった1コマ(しかもようやくラストから6こまめ、しかも活字じゃなくて小さな書き文字)というんだから、群を抜いた内気少女。
そんな彼女が目指すのは、言葉が出なくても意思疎通できる宇宙人とコミュニケーションをとること。消え入りそうな儚さの中に、いつか宇宙に飛び出して自分の居場所を見つけるという大望を密かに抱いているのです。
この物語は、そんな海果ちゃんがユウちゃんと出会い、「おでこぱしー」で心を開かれ、少しずつ自分の言葉で想いを告げるようになり、夢に向けて一歩ずつ前を向いて進んでいく物語。言葉が拙くても、夢がどんなに遠くても、けしてあきらめない彼女のひたむきさは読んでいて応援したくなると同時に、いつの間にかこちらが勇気づけられる、そんな気持ちになりますね。
いつも伏し目がちだけど、時折真っ直ぐ向けた瞳には、星のように強くひたむきな光を宿している女のコ。ロケットのように強い推進力と可能性を秘めたヒロインです。

Charactor

ボっナヴ〜(宇宙語)♪ ってなわけで、本作品のもうひとりのヒロインと言えるのが明内ユウちゃん。長〜いツインテールに、真ん中分けのおでこがトレードマークの元気少女です。
いや、元気少女というのも生易しい、朝から晩までハイテンションな女のコ。「おでこぱしー」という以心伝心能力を持ってはいますが、そんなものをつかわなくても瞬時に相手との心の距離をゼロに縮めてお友達になれちゃう、なんともうらやましいキャラクターの持ち主なのです。
実は地球に来るまでの記憶がなく、宇宙航海日誌しか手がかりがないという境遇なんですが、そんな事情を感じさせないほどにアクティヴでアグレッシヴ。海果ちゃんとはまさに好対照で、海果ちゃんをしっかりと受け止めてくれる存在でもあります。
続いての登場はカチューシャに柔らかな笑顔がトレードマークの副学級委員長さん、宝木遥乃ちゃん。
包容力があって物分かりのいい常識人……のように見えてこの子も他人との距離の詰め方が若干おかしいです。ぐいぐい来ます。時折どっか別の世界行っちゃっているような、少女趣味全開の言動もチャームポイントですね。
そして4人目のメインキャラクターがライダーゴーグルが目印の雷門瞬ちゃん。
ユウちゃんとは別ベクトルで、海果ちゃんと対照的なキャラクターですね。ぶっきらぼうで自ら人を寄せ付けないところは海果ちゃんと好対照。だけれど、人との距離を詰めることが全然できない、といしう不器用さは海果ちゃんと共通しているように見えるのです。
初登校の日にいきなりご禁制のバイクで、しかも後ろに遥乃ちゃんを乗せて登場というアウトローっぷりをみせますが、その実4人の中ではいちばん世間の尺度を知っている常識人。この作品の中では隠れたエンジン役で、このコが出てくることによってグイッとハートフルストーリーの色が濃くなったように感じられるのですよね〜。
いたずらっぽい笑顔が魅力的なボーイッシュ少女なのです。

Guide

ポップな画面作りはいかにも「今風だなぁ」と思えますね。
その一方で、引っ込み思案な少女を主人公にした導入部はオーソドックスですし、とくに瞬が登場してからの熱量とディテールを加えた展開は往年の素朴な少年マンガを想起させるものがあります。
絵面という大きなハードルはありますが、「きらら」系になじみのない人にもオススメしやすい作品かな、と思います。

2020.8