（松乃美佳／集英社りぼんマスコットコミックス・全１巻）
中西清心（きよみ）、１４歳。綽名は兄キ。
女子中学生に似つかわしくないその綽名は、初デートでキスをしようとした相手を投げ飛ばしてしまうような男勝りの性格のせいだ。
そんな清心がある日見かけたのは告白現場。体育会系の男のコに告られているのはどんな女のコなのかと見てみれば、なんとそれは押しの弱そうな美少年。
清心は押され気味の美少年を見て持ち前の義侠心が頭をもたげ、思わず飛び出して割って入った挙げ句、「じつは私達付き合ってんだよね」と嘘をついてしまうが・・・
表題作「乙女の才能」をはじめ、４人の少女それぞれの一生懸命を描いた学園短編集。
かわいらしい絵柄と手堅いストーリーメイクに個人的に注目している松乃さんの最新短編集です。
今回もストーリー、構成両面で冒険している部分は少なく、その分安心して読める作品集になっています。
どの短編も、年少向け少女マンガでは基幹テーマとなる「初恋」と「少女の成長」をしっかりストーリーに絡め、そのアクセントとして、表題作では「兄キ」から「乙女」に変わっていく清心、「月色シークレット」ではありすの変身、「いくもカーニバル」ではボーイッシュ→ガーリッシュ→和装と変化するいくものお色直しと、女の子が憧れる変身要素を取り入れているのが目を引きます。これがビジュアル的に読者を引きつけ、平凡になりがちなストーリーの中でよいアクセントになっているように感じられます。
「乙女の才能」「バラ色一直線」のようにさまざまなエピソードを詰め込んで組み立てた作品でも、的確にヒロインの心理を際立たせるモノローグの配置が上手く、大ゴマの使い方も効果的で、ストーリーが散文的になるのを防いでいます。
全体的にセンスのよさが発揮されており、ナチュラルで親しみやすい一冊です。