火喰鳥 羽州ぼろ鳶組

(今村翔吾/祥伝社文庫)

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Story

かつて「火喰鳥」の二つ名を戴き、江戸市民に絶大なる人気を誇った名火消がいた。その名は、松永源吾。
とある理由から火消の職を辞し、浪人暮らしに身をやつしていた源吾の許に、羽州新庄藩から火消組織を立て直してほしいとの依頼が入る。
藩の窮乏ゆえに火消は離散し、装備は老朽化し、火消装束すらぼろぼろの、壊滅寸前の「ぼろ鳶」を、火を懼れるようになった火消・源吾は立て直すことが出来るのか。
江戸には「朱土竜」という妖しい術を使う放火魔が跋扈。新庄藩火消の再建を、時は待ってくれない。

Impression

江戸の火消をテーマにした時代劇作品です。
面白さの両輪となっているのが、ディテールとキャラクター。江戸開府から幕末までに1800回の火事が起きたという江戸を舞台に、火災発生のメカニズムと、それに立ち向かう防火のシステムを分かりやすく解説した上に、実際に起きた「江戸三大大火」のひとつといわれる「明和の大火」をクライマックスに用意して、250年前の江戸をリアルに手許に引き寄せてくれます。
一方でキャラクターには「火喰鳥」の異名をとり、華々しい過去を持ちながら零落した松永源吾を中心に、ひとクセとひと花ありながら、どこかにコンプレックスを抱えた若者が参集してくる構図。そこに「男たちの再生」というテーマを見ることが出来、読者が感情移入しやすい、ストレートな構図を作り上げています。
場面説明やディテール描写に過分に行数を割くことなく、スピード感たっぷりにキャラクターが動き回り、コメディ要素やアクション要素も的確に配分されて、まったく飽きることのないストーリーテリングのリズム感も出色。小説でありながら、どこかテレビの時代劇を見ているような気軽さとテンポの良さが目立ち、あっという間に作品世界に取り込まれてしまいます。
豊富な知識と圧倒的な熱量を前面に押し出すのではなく、「劇」の中でキャラクターを通して放出する手腕が巧みで、「見てきたような嘘」を読む愉しみに満ちた作品です。

2020.2


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