(水谷悠珠・蒼山サグ・てぃんくる/アスキー・メディアワークス 電撃コミックスNEXT・1〜6巻)
不登校の高校生・貫井響は、ボーカルソフトのプロデューサーとしてネット上で活躍していた。
そんな彼に届いた1通の、会って話をしたい、というメール。
3年間ヒキコモリ、外出するのは人がいない時間帯のコンビニくらいという響にとってそれは高いハードルだったが、メールの中の一文に興味を引かれた響は、それを承諾する。
そして向かったゴールデンウイークの公園。そこには3人の、小学生の女のコが待っていた。彼女らの願いは、自分たちのバンドを響にプロデュースしてほしいというもので……。
水谷さんの作品を紹介するのはなんと11年ぶり、蒼山さんの作品を紹介するのは前作に引き続き。
以前から注目していたお気に入りの絵師さんと、目下大注目のライトノベル作家のタッグとあっては、これは発売日に書店に滑り込まないわけにはいきません。
というわけで大きな期待とともに開いたナカミは……おおおお、期待以上。
水谷さんらしい独特の透明感で描かれた幼女たちは、まさに天使、ビバ天使と叫びながら歌いだしたくなるほどの愛らしさ。加えて主人公の響、少女たちを育てている元神父の正義さんと、男性キャラも魅力的に描かれていて、引き込まれるようなヴィジュアルを作り上げています。
ストーリーの方も、引きこもっていた少年が誘われるままに一歩を踏み出し、そして少女たちの企みに巻き込まれるまでをテンポよく、そして軽妙な台詞回しで繰り広げていて、ぐいぐいと作品に呑みこまれていきます。このへん、原作者の言葉づかいの巧さと、作画者のテンポメイク、コマ割りがいいハーモニーになってると感じられて、実に心地いいんですよね〜。まさにマンガのリズムに身を任せたくなる感じ。
「PASSEGE 2」の展開は、音楽に詳しくない私でもドキドキワクワクのディテールに、幼女+楽器という禁断のヴィジュアルで読み手を圧倒。
もちろん、ラノベ原作の作品らしく、サービスシーンも満載。眼福度満点のそのシーンは、ぜひ本を手に取ってご確認ください。
悪くいえば、ヒロインが誰だか分かりにくい、しかし言い換えればどの女のコもよりどりみどりで選べない!
それが「リトルウイング」に暮らす3人の天使たち“リヤン・ド・ファミユ”なのです。
まずコミックスのカヴァーを飾るのは、ギター兼ヴォーカルの五島潤ちゃん。切り揃えた前髪に色素の薄いロングヘアー、そしてふわふわの笑顔。ちょっとこまったような表情がデフォルトの内気な女のコで、まさに守ってあげたくなるようなタイプですね〜。透き通るように儚いルックスの潤ちゃんがギターを抱えた姿はまさに至高のアンバランスなのです。
ふわっふわの黒髪が印象的な、しっかり者で強気な女のコがベース担当の紅葉谷希美ちゃん。いかにも勝気な感じの目がたまりません! 3人の中ではリーダー的な、みんなをぐいぐい引っ張っていく女のコ。年上の響のことも呼び捨てにして振り回す容赦のなさがまたいいんですよね〜。徹しきれていないツンデレもまた彼女の魅力なのです。
ドラムスの金城そらちゃんはマイペースなショートカット娘。口数は少ないし、背はちっちゃいし、楽器も地味なポジションですが、しっかりと存在感を出している女のコです。3人の中ではペースメーカーにしてムードメーカーにしてトラブルメーカー。あどけない、という言葉がぴったりはまるルックスと独特の台詞回しも印象に残る、なんとも個性的な女のコです。
かわいい女のコはまだまだいるぞ!
ってなわけで、主人公・響の妹が貫井くるみちゃん。リトルウイングの3Pと同じ小学5年生。黒髪ツインテールが愛らしいですね〜。
響の入っているお風呂に一緒に入ってきたりして、それでいて言ってることはツンツンにクールで、もうこれはツンデレ妹の究極形。こんな妹と一緒に暮らしてるなんて、おっきなぬいぐるみを抱っこしたフリフリのパジャマ姿を毎日目撃できるだなんて、一緒にお風呂も入っちゃうなんて、おまけにいろいろ心配もしてもらえるなんて、うらやましすぎるぞ主人公! と、虚空に向けてハーツクライしてしまいます。
未成熟な女のコもいいけど、もうちょっと育った女のコもいいぞ、というご意見にもしっかり対応しているのがこの作品。主人公の同級生・鳥海桜花ちゃん。ドライな言動や制服の着くずしぶりとは対照的な、寂しげな瞳が印象的な少女ですね〜。これからどんな形でストーリーに絡んでくるのか、実に気になるミステリアスガールです。
そしてもうひとり、3Pのお父さん的存在、リトルウィングのキース・リチャーズとでも呼びたいのが佐渡正義さん。かっこいいオトナが存在感見せてる、ってのがこのテの作品が面白くなるための条件。そういう意味では、ミステリアスでいて包容力たっぷりなこのオッサンの存在が、この作品の面白さを決定づけているといえるかもしれません。
ストーリーとしても一級品の面白さがあって、ビジュアルもこなれていて雰囲気十分。しかし最終的には小学生ってことしか印象に残らない、若干始末に困る作品ではあります。
言い換えれば、ストーリーでもビジュアルでも小学生でも、どこからでも入れる作品になっています。
2015.1