(橘裕/白泉社ジェッツコミックス・全1巻)
昔書いたポエマーなラブレターをネタに、美少女・香野藤緒にユスられつづける好青年・杉島拓也。彼には藤緒に知られたくない裏の顔があった。それはベタ甘少女小説家・花屋敷ゆり子という顔。拓也は秘密を守りきり、かつて「あたし“いい男”が好きなの」と言った藤緒のハートをつかむ事が出来るのか?
橘裕さん、青年マンガに初登場〜
というのは個人的には一大エポックと思えましたね。ストーリーテリングの巧さでは定評があり、私の意見としては男性にお勧めしたい少女マンガ家さんの最右翼(特にKey系のファンの方にはオススメです)。ネックがあるとすればその絵柄かなー、という感じでしたから。
さて、いよいよ現実のモノとなった橘さんの青年誌デビュー作の感想は、うん、○でしょう。キャラクターは橘さんらしいずれた個性を発揮、ストーリーは青年ラブコメの王道ながら、雰囲気は少女マンガと、それぞれのいいとこどりした激甘ミックスパフェという感じで、なかなかいい感じ。
その中でも特筆はやっぱりそのキャラクターでしょうね。二の腕とほっぺがかわいいヒロイン・藤緒ちゃん、無口なストーカー・頼子ちゃん、ハイテンション全壊(←誤字にアラズ)強権編集者・百合子姉と、女性陣は個性的の一言で片付けることが出来ないおいしさ。これほど期待通り、と思わせる一冊もないでしょう。
キャラクターの魅力にめろり〜んとなりながら楽しめる、お買い得ラブコメです。
大食らいな上に過去をネタに拓也をゆすりつづけてたりする、ちょ〜っとかわった女のコ。でもこんな小悪魔な女のコもいいですよね。もうどーにでもしてってな感じで、その瞳、その言葉の向きにドッキドキしてしまいます。
橘さんの絵は、その大きな黒い瞳と細い線、薄着の似合う肩から二の腕の当たりが魅力なんですが、藤緒ちゃんもまた、不敵な表情と抱けば折れそうな細いボディラインが見事にマッチしていて魅惑的。アップのシーンはその瞳の力に吸い込まれそうになりますし、ロングのシーンではその長い髪、その長い脚に眼がクギ付けになって、ただひたすら「美人やなー」と思ってしまいます。
そしてラブコメものの定番ながら、なかなか拓也に素直に心を開けない、やきもきさせる行動がまたグッド。このへん、ほんとに小悪魔ですねー。
魂が吸い込まれてしまうほどに、個性が輝いています。
藤緒ちゃん以上に個性が光ってる、美しき黒髪のストーカー・鹿取頼子ちゃんもいい味だしてますね。無口で無表情で、その言動は恐ろしいほどにミステリアス。んー、いいですね。何を考えてるか分からないようで、でも気持ちがにじみ出ているというか、透けて見えるようで、でもやっぱりよく分からない。かなり印象的です。
拓哉の姉にして強権編集者・杉島百合子さんは・・・女王様ルックが似合いそうですな(笑)。いっそここまで横暴だと爽快です。いいです。笑えます。自分が拓也じゃない限り。
男性陣ではワイルド系いいオトコ、鹿取もいい存在感出してますね。妹の頼子ちゃんに負けず劣らず。「本物」臭をぷんぷんさせてて、その辺ステキですが、なーんとなくウラもありそうなキャラクター。彼メインの外伝など読んでみたいモノです。
で、よーやく本編の主人公、杉島拓也クン。・・・・・・・インパクトないなぁ。ま、そのへんが読者の共感得られるかも知れないってことで。
問題があるとすれば絵柄だけじゃないかなぁ。男性にも女性にも、それなりに楽しめるいい作品だと思います。「Honey」「人形師の夜」あたりに比べれば重さに欠けますが、素直に楽しめる好作品。
個人的には「ギャルゲー的作品」だと思います。あまりやったこたないんですけど。もしくは純正ラブコメ系ライトノベル的作品というか。結論への導き方がね。
言い換えれば、キャラが立ってる割にストーリーにけれん味のない、久々の好作品。キャラクターの個性を楽しみつつ、ゆっくりハマりましょう。
2001.6