(まつだひかり/講談社アフタヌーンKC・1巻〜)
河下心はベースを弾きつつ、“shin”のハンドルネームで自作曲をネットに公開するのを趣味にしている内向的な女子高生。音楽は聴くもの、作るものとして捉えていたが、その実、胸の奥では自分が観客側ではなく、奏者としてステージに立つことに仄かな憧れを抱いていた。
その憧れは、shinの曲がひとりの少女に届いたことで動き出す。
即売会のshinのブースにやってきた少女・リクは、一緒にバンドを組み、音楽フェス「ASAYAKE
ROCK FESTIVAL」のトリを目指さないかと持ち掛ける。
引きこもり志向のDTMerにVtuberという最近ありがちなヒロイン、ひとりひとり仲間が増えていくというシンプルでイージーなストーリー。ガールズバンドというテーマも含めて、「ありがちだよね〜」「手垢ついてるよね〜」「先行ヒット作いろいろあるよね〜」と言って片付けたくなるんですが。
ひと言で片付けられない魅力があるから、ここで紹介しちゃうのです。
その魅力というのは好きなことに夢中になってく、どんどんハマってく、熱を帯びてく、のめり込んでいく、そして世界が広がっていく感覚。ベースを弾いたことなんてないし、バンドなんてやったこともないけれど、それでもなお心ちゃんが寝食を削ってまで曲作りにのめり込み、誰かのために曲を作って時間を忘れていく様に共感してしまうんですよね〜。
それは応援するというよりも、一緒になって曲を作って、それを一緒に発信して、メンバーを集めてバンドを作ってく、そうやって世界を広げてく、そうやってストーリーと一体になってのめり込んでしまう感覚。だから、心ちゃんの紡ぐ素敵なメロディが、リクちゃんのちょっとハスキーで胸の奥まで届くようなヴォーカルが、一夏さんの自在で優しいリズムが、海さんのクールで刺さるようなギターが、それが融和し重ねられた音が聴きたいッ!!! ってなっちゃう……いや、ページをめくれば聞こえてくる、そして心臓まで届いて、鳥肌が立っちゃう!!! のです。
ガールズバンドものらしい華やかさ、それ以上にページからあふれる熱量に身も心も委ねたくなる青春物語。
彼女らがどこまで突っ走っていくのか、見届けずにはいられません!
本編のヒロインが河下心ちゃん。ハンドルネームshin、17歳。
ベース歴3年、DTM歴3年、部屋でベースを鳴らしつつ、自作の曲をインターネットに公開しているという自己完結型引きこもり系のヒロインです。
いや、引きこもり系とは書きましたが、ちゃんと学校には行ってるし(ぼっち飯だけど)、自分が演者としてステージに立つ姿を妄想してみたり、音楽系の即売会に売り手として参加してみたりと、それなりにちゃんと外とのアクセスは取れてる女のコ。うん、こういうところが共感度高いのかな〜と思いますね。
うん、そう。心ちゃんの最大の魅力は物語を進めていく上でのナビゲータとしての魅力であり、等身大の女子高生としての魅力。正直、ヴィジュアル面での特徴はないですし、あざとく萌えを狙ったようなアイコンも備えてないし、ずば抜けた能力とか(作曲のセンスは相当なものを秘めてそうですが)、飛び抜けたコミュニケーション能力を持っているわけではない。だけどもベースの刻むリズムが心地よく音楽を流れに乗せるように、読者の興味を心地よくストーリーに乗せて、導いてくれるんですよね〜。
そんな心地よさのある女のコだから、いつの間にか仲間たちが集まってくるし、いつの間にか読者は共感しちゃう、応援しちゃう。
地味系だけど抜群の存在感を持って読者をわくわくさせてくれる、そんな主人公なのです。
本編のもうひとりのヒロインといえるのが、リクちゃん。「九六衣カコ」のハンドルでVTuberをやっている、心地いい声の持ち主。ヴォーカルをやるために生まれてきたような天性の持ち主ですが、それよりも彼女を彼女たらしめているのはその圧倒的な行動力。心ちゃんの音楽が気に入ったと思ったら、自分の配信で取り上げるのみならず、即売会の「Shin」のブースに突撃して、しまいにゃバンド経験もないのに「ASAYAKEのトリ目指しませんか」なんて言い出しちゃうこの無謀なまでの行動力。さらにさらに、弾いたこともないのにギター買ってきちゃってバンドのギターに収まっちゃおうという唖然とするまでの瞬発力。まさにこの作品のエンジン、しかもターボ付きなんですよね〜。「見ていてハラハラする」という感じじゃないんですが、その向こう見ずさには圧倒されちゃいます。
ドラムを務めるのは才原一夏さん。27歳の落ち着いたおねえさんです。リクちゃんとは対照的な包容力たっぷりのおねえさん。それはいつでも笑顔を絶やさない穏やかさだったり、リクちゃんを陰日向にサポートする優しさだったり、あるいは包容力たっぷりなプロポーションだったりに現れるわけですが、バンドのリズム担当としても柔軟にメンバーをサポートする自在性にも表れているんですよね〜。経験の浅いJK中心のバンドでも、一夏さんがいればなんとかなる、そう思わせる女性なのです。
そしてギターとして加わるのが木瀬海さん。忖度なし、ドライにクールにストレートに問題点を指摘してくるところはリクちゃんと対照的で、いい意味でのこの作品のブレーキ役でハンドル役となりそうな存在です。彼女の存在がどんな化学反応をもたらすのか、なんとも楽しみな「第4の女」です。
2026.5