(坂巻あきむ/竹書房バンブーコミックス・全2巻)
中村コウタは女性が苦手。
だが、隣に住む幼なじみ・向上歌恋に、恋の手助けをしてほしいと相談される。
歌恋の女子力向上作戦につきあいながら、コウタの心は揺れ動く。
歌恋の恋を応援すると決めたはずなのに……。
今は亡き「まんがくらぶオリジナル」誌で掲載されていた作品。
コミックスが発売されたときは、「今月はキビシイからなぁ。掲載誌で読んでる作品だし、後に回すか……」などと思っていたんですが、平台でカヴァーの歌恋ちゃんのなびく黒髪に! おっきな瞳に! はかなげな笑顔に! きゅっと胸許に握られた両手に! クラッと来て、レジに持って行ってしまいました。
これまでは「クレーンゲームあぁむたん」など、ぷにかわいい絵柄にぴったりの、あっけらかんと明るい作風が多かった坂巻さんですが、本作品では四コマの枠の中に甘酸っぱい初恋物語をぎゅっと詰め込んで、しっかり作品に浸らせてくれます。そういえばその昔、坂巻さんは「Kanon」のアンソロでリリカルなショートコミックをよく描いていたなぁ……なんてことを思い出したりしましたよ。
坂巻作品の中では異色、といえるカラーを持ってはいますが、それでも瑞々しくて明るい、坂巻さんらしい雰囲気はしっかり堅持。だからこそ、歌恋ちゃんの気持ちを、コウタンの気持ちを、両方リアルに感じられて、ドキドキしちゃうんですね〜。
幼いけれど、不器用だけど、だけど一生懸命な恋を、優しく描いた佳作です。
タイトルが「ボク恋コンダクター」ってくらいですから、ヒロインはボクっ娘。
ふわふわの黒髪と大きな瞳ががなんとも印象的な、いかにも「正統派美少女」ッッッ! というヴィジュアルと、「ボク」という一人称がなんともナイスギャップで、それだけでも身悶えしたくなるヒロイン、それが向上歌恋ちゃんです。
いかにも家庭的、というルックスでありながら、卵を片手で粉砕しちゃったり、粉塵爆発でも起こるんじゃないかというくらいに小麦粉をぶちまけたり、オブジェのようなサンドイッチをこさえてみたりと、キッチンに立つとオトコマエというか壊滅的というかな行動をしてくれて、まぁ、そのへんもナイスギャップですね。
「女子としての自覚を持て」とコウタンに諭されるくらいの無防備さもまた、ボクっ娘らしさ。そしてその無防備な危なっかしさが、「守ってあげたいッッッッッ!」と夜空に遠吠えしたくなる歌恋ちゃんのかわいらしさに繋がっているのです。
快活で、恋愛にはそのぶんオクテな歌恋ちゃん。
そんな彼女が樹さんに恋をして、樹さんを前にすると、テンパっちゃったり、固まっちゃったり、空回っちゃったりと、一気に純真乙女モードになっちゃうのもこれまたキュートなギャップ。
コウタンならずとも、無邪気すぎるからほっておけない、振り回されてもかまわない、そう思えちゃう天然美少女です。
主人公のコウタとともに歌恋ちゃんを見守る保護者役が、向上愛ちゃん。歌恋ちゃんの妹です。幼児でありながら大学レベルのIQの持ち主で、空回りがちのお姉ちゃんとは対照的に、クールな性格。作中ではその頭脳を主にコウタの弱みをにぎり、いいように操るために使っているわけで……。幼女でありながら、なかなかいい味出している、見逃せないサブヒロインです。
愛ちゃんのクラスメイトがポニーテイルの元気少女・大沢みのりちゃん。ボーイッシュなボクっ娘・愛ちゃんといいコンビを見せる、おおらかな性格の女のコです。大雑把なようでいて、乙女な素顔を秘めていて……そんなギャップにときめいてしまいますね。
コウタのお姉ちゃんが途中から登板の中村セツナさん。いかにも「弟のいる姉」という感じで、コウタをおもちゃ扱いし振り回す、そこがこの作品のいいアクセントになっています。豪快で磊落、そう見せていて実は作品のキャスティングボードを握っている、そんなところも「姉」らしいですね。
コメディ要素も多分に含まれていますし、歌恋ちゃん萌えでも十分楽しめますが、この作品の味わいはやはりラブストーリーとしてのもの。
このへんが好みの別れるポイントかもしれません。「くらオリ」誌掲載作品だけあって「きらら」系のような個性はありませんが、一方で恋愛要素の好きな方なら性別や年齢を問わず楽しめる作品だと思います。
2015.11