ブレーメンU

(川原泉/白泉社ジェッツコミックス・全5巻)

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Story

99.999999999%。その緻密な仕事ぶりから「イレブン・ナイン」の異名を持つ女性宇宙飛行士、キラ・ナルセは、スカイ・アイ社の大型宇宙輸送船の船長に抜擢される。
しかし、その船「ブレーメンU」は、遺伝子工学と生物工学の粋を集め、人間と同じように仕事をし、人間とコミュニケーションをとれるように進化させた動物達を乗組員に採用していた。
2306年。人類と動物の宇宙史にあらたな一ページを書き加え、「ブレーメンU」は多難な航海に乗り出した・・・

Impression

簡単に言うと、ヘンな作品です。まぁ、川原泉さんだから仕方ありませんが。
ヘンといっても不条理とか、壊れ系とかではなく、ディテールたっぷりにきちんとストーリーを作った上で、脱力系やの小ネタを詰め込んだ変調型の作品。
「ブレーメンU」の航海に思いを馳せ、次から次へと襲い来るトラブルに手に汗を握ってると、くつくつ虫が出てきて「ミネソタの小麦畑にミステリー・サークル作りに行きません?」なんて言ってみたり、2306年だってーのにスニッカーズの包み紙が出てきたり。
関西人ならずとも「なんやそらぁ」とツッコミかましたくなる、そういうムードが169ページの間、絶え間なく襲ってくるわけです。なんちゅーか、読んでて疲れます。テキストも多いし。
でも、読み終わった後、なんか心地よいけだるさに見舞われるんですよねー。
なんちゅーか、ヘンだけど、面白い。コミック紹介サイトの管理人を困らせるような、ヘンな作品です。まぁ、川原泉さんだから仕方ありませんが。

Kira Naruse

黒髪ボブカット大和撫子系〜
とかいつもののノリなら言うのでしょうが、作品の雰囲気もキャラクターの個性もそんな感じじゃないですね(笑)。とはいえ魅力的な本編のヒロイン、キラ・ナルセ船長のご紹介に参りましょう。
99.999999999%の正確さを誇るその技量から「イレブン・ナイン」の異名を持つ彼女ですが、ではクールで無表情、無機質な女性かと言えばさにあらず、どこにでもいるような平凡な感じの、表情豊かな女性なんですよね。とはいえ、その異名に違わず、いざ危機となれば迅速な判断と、的確な指令で、どんなピンチも脱出してしまう完璧さ。
いかにも傑女らしい、ミステリアスな魅力を持ったキャラクターと言えるでしょう。

Charactor

マウンテンゴリラのダンテ副長、白ウサギのシルビア航宙図士、黒ヒョウのオスカー航宙士、ジャイアントパンダの李船舶給仕長、白ヤギのアベル図書館長・・・多彩なキャラクターがこれでもかと出てくる作品ですが、はっきり言って、どーぶつを紹介しても仕方ありませんな。うーん。
てなわけでまずは自称火星人のリトル・グレイ。・・・って人間を紹介するんじゃないんかい。どことなく「うみにん」を想起させる彼ですが、彼ののれんに腕押しというか、とことん不条理系の言動が素敵。リトル・グレイがひとりいるだけで、けっこう緊迫感のある作品が、全面的にだるだるになっていて、その風合いがいいですね。
もひとり、まともな人間からはキラの上司であり、スカイ・アイ社社長のナッシュ・ユーイング・レギオン。アングロサクソン系の男前なんですが、うーん、どうも行動が男前っぽくない。社長っぽくない。なんか親しみの持てるキャラクターで、いいですね。
ま、まともなキャラクターはいません、この作品。うん、ステキだ。

Guide

少女マンガ系の絵+学習マンガ的シチュエーション+少年マンガ的ストーリー+脱力系川原風味。
まぁ、なんちゅーか評価の難しい作品ですし、正直、好みは別れると思います。基本的にすっとぼけた雰囲気が好きな方向けということになるでしょう。テキストが多いので、お気楽に読みたい向けには辛いかも、というあたりがなんとも矛盾してる気がするんですが。うーん。
ともあれ、難しい作品じゃないので、あまり考えず読むことをおすすめします。細かい文を追うのが苦手な人は、その辺読み飛ばしちゃっても、大勢に影響がありませんので、気楽をキーワードに進みましょう。

2001.5