球場のシャーロット

(黒宮魚/芳文社ファズコミックス・1〜2巻)

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Story

とある冬、白市秋葉の家にひとりの女のコがやってきた。
長く赤い髪、赤い瞳が印象的な少女の名はシャーロット。秋葉の父の再婚相手の連れ子なのだった。
言葉は片言で、人と話すことが苦手な引きこもり気質の彼女とは、コミュニケーションをとることもままならない。
だが、彼女に頼まれて赴いた野球場「ゴールドフィッシュスタジアム広島」で、秋葉は豹変したシャーロットの姿、「球場のシャーロット」を見ることになる。

Impression

「また野球マンガかよ」と言われそうですが。
すいません、申し開きする言葉もございません。
「また“きらら系”かよ」と言われそうですが。
事実なのでまったく反論できません。
それでも開き直って推しちゃいます。広島を舞台にした野球観戦義兄妹ラブコメ、この「球場のシャーロット」を!
登場人物は球場に来ると人格が変わって暴言癖が出ちゃう赤毛娘だったり、イケメン選手の一投一打を双眼鏡で追いかけては涎垂らしてるJKだったり、「うんこ」しかセリフのない幼女だったりと、まぁロクなキャラがいなくて、「広島って変人しか住んでないの?」と、脳内に「仁義なき戦い」のテーマを再生させながら戦慄してしまうんですが、それでもなおこの作品に引きつけられてしまうのは、生で野球を見る楽しさがページから溢れてくるから。
B級グルメに舌鼓を打ち、カンフーバットをリズムよく叩き、マスコットの一挙手一投足を楽しみ、そして贔屓チームの戦いにわくわくしているうちに何千何万の観衆が一体化し、球場全体が地響きのような歓声に包まれていく、その高揚感が画面から伝わってきて、引き込まれてしまうんですよね〜。
大阪住んでた時は甲子園や京セラドーム(あのころはまだ大阪近鉄バファローズがあったんだよなぁ……)(←遠い目)に足を運び、名古屋に越してきた今はバンテリンドームであまりの貧打に天……じゃなかったドームの天井を仰いでいる私にとってはシンクロ率100%の作品。
そしてページを閉じるとともに、球場へと駆け出したくなってしまうのです。
……贔屓チームは十中八九、負けるんですけどね。

Charlotte Shiraichi

本編のヒロインが、タイトルにもなっているシャーロット。
広島が舞台の野球マンガなのにヒロインの名前に「LOTTE」ってあるけど、いいの? と思わないでもないですが、細かいことは気にしない方向で。
広島が舞台の野球マンガのヒロインらしく、赤い髪に赤い瞳が印象的な、遠い国からやって来た女のコ。
とにかくコミュニケーションが苦手で、誰かとひとこと話すだけでもひと苦労、人と目を合わすなんてもってのほかという内気少女なんですが、球場に来て背番号1の深紅のレプリカユニフォームを身にまとうと雰囲気は一変、やたらと積極的になるだけならまだしも、野次まで飛ばしまくっちゃうようになっちゃうという、なんとも裏表の激しい女のコなのです。裏表が激しい。……野球マンガですからね(←だまらっしゃい)。
なんとも扱いづらい女のコなんですが、それもこれも野球に一途なゆえ。
いくらなんでも生活を野球に全振りしすぎじゃないかこのJK、と思わないでもないですが、野球場で野球観戦をめいっぱい楽しみたい、そして一緒にいる秋葉にもめいっぱい楽しんでもらいたいという気持ちが迸っちゃってる、そこがなんともいい個性になっているのです。
こんな女のコと、カクテル光線の下、野球観戦出来たら楽しいだろうなぁ、時間経つのあっという間だろうなぁ(でもめんどくさいだろうなぁ)、と思わせてくれる個性派ヒロインです。

Character

ゴールドフィッシュスタジアム広島(ゴルスタ)では、シャーの反対側、秋葉の右隣に座っているのが瀬野いろはちゃん。シャーの同級生、秋葉にとっては海神高校の後輩ということになりますね。
スタンドで双眼鏡を目に当て、上森きゅんや水谷きゅんといったイケメン選手の一挙手一投足を追いながら、ぶつぶつ何かつぶやきつつ時には涎まで垂らしているという不審者系ヒロイン。せっかくの美少女が台無しです。
さらに、双眼鏡を外せば鋭い目つきにマシンガンのような広島弁というなかなか迫力のあるキャラクター。常にツンツンしてるけれど、イケメンの前でだけデレるというあたりもキャラが徹底していますね。美少女が台無しだけど、そこが楽しくてなんだかかわいい、そんな独特の個性を持った後輩ちゃんなのです。
いろはちゃんとは対照的に穏やかな微笑と長い髪、なにより簡単に他人と距離を詰めて見せるコミュ強っぷりが印象的なのが天神川真優ちゃん。こちらもシャーといろはちゃんのクラスメイトだったりします。世間が狭いな、広島。男女ともにコロッと手玉にとっちゃうような小悪魔キャラで、厄介キャラが多い当作品の中では異彩を放っていますね〜。野球のことはわからないけれど、スタンドにいてテレビカメラに抜かれる術は熟知しているという典型的お気楽ファンで、このへんもシャーやいろはちゃんとは好対照。熱く燃え上がるだけが野球観戦じゃない、そういう意味でも貴重なキャラクターなのです。
本編の主人公がシャーの義兄の白市秋葉。長い前髪隠れた目、ぶっきらぼうでクールでインドアでゲーム好きという、典型的ギャルゲ主人公典型的ラノベ主人公なキャラクターですね。シャーと、それを通して野球ファンをクールに見ていた彼がどう染まっていくのかが本編の見どころだったりします。

Hiroshima Goldfish

作中でヒロインたちとは別の意味で存在感を放っているのが広島ゴールドフィッシュ(通称ゴーフ)の選手たち。それぞれの選手の特徴が説明され、そして彼らが繰り返し出てくることで「この選手を推す!」っていうところが明確に伝わってきて、うん、このへんが巧いですね〜。マンガ的に突き抜けたところがなく、勝ったり負けたり負けたり負けたりを繰り返している彼らですが、だからこそスタンドから見た球場のパノラマだったり、逆転打が飛び出した時の興奮だったりが妙にリアルでエモーショナルに感じられて、なんだか引き込まれちゃうんですよね〜。
ここではそんな選手たちを紹介しちゃいましょう!
まずはいろはちゃんの推し、上森大河投手。いろはちゃんからは「イケメン」という以外の評価が聞かれていないような気もしますが、背番号18を背負ったベビーフェイスの次期エース候補。しょっちゅう先制点を許して苦しいピッチングをしているよーな気もしますが、そのへんの頼りなさがリアルだったりはしますね。
シャーが推しているのはヴェテラン・銀山(かなやま)銀次朗、背番号1。「天才」と呼ばれる22年目のヒットメーカー。怪我と戦い、今は代打屋としてひと振りに賭けるいぶし銀の選手なのです。なんか昔、カープにもそんな選手いましたね〜。
秋葉が注目しているのは内野手の音無。背番号63が示す通りの一軍半、二軍落ちの瀬戸際にある選手で、打つ方はともかく守備はからっきし。それだけに必死にくらいつく姿に声援を送りたくなる気持ち、わかるんですよね〜。「ウチにもこういう選手、いるわ〜」と頷いてしまう若手なのです。
そしてなにより存在感を放つのがマスコットのハミキン君。なんとかならんかったのか、その名前。最もファンの注目を集めるパフォーマンスが5回裏攻撃前の「ハミキン君の玉占い」。なんとかならんかったのか、そのパフォーマンス。ハミキン君の股間から出た玉の色で吉凶を占うという……な・ん・と・か・な・ら・ん・か・っ・た・の・か・そ・の・パ・フ・ォ・ー・マ・ン・ス! 
……という感じでなかなかにシュールでアヴァンギャルドなマスコットなのですが、それだけに存在感は抜群。うっかりするとヒロインよりインパクト強くないかな、このマスコット。

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2025.6