(namo/KADOKAWAハルタコミックス・1〜3巻)
金髪ギャルの女子大生・しいなは、交際している銅器職人の修から求婚を受ける。
それを承諾し、婚約者となったしいなだが、銅器職人の世界は分からないことだらけの上に、頑固者ばかり。
それでも彼女は持ち前の明るさで、銅器職人たちの世界へと飛び込んでいく。
新潟県、燕三条。
本作品ではひとくくりにされていますが、燕市と三条市というふたつの市が並んでまして、上越新幹線の駅があったり、背脂たっぷりの燕三条系ラーメンというのがあったりしまして、そして燕市は洋食器の町として、三条市は刃物の町として、ともに名高い職人の町だったりするのです。……燕市と三条市は隣同士だってのに仲が悪いってことでも有名だったりしますけどね……。
この作品はそんな職人の町で繰り広げられる物語。
新潟の冬の鉛色の空みたいに寡黙で、伝統をひたすら守り続けてきた職人たちの世界を、金髪ギャル・しいなの奔放な明るさが照らしていて、雪の晴れ間のような眩しさ、温かさが感じられるんですね〜。暖色系でちょっとファンタジーじみたカヴァーとは一転の、なんか朝ドラにしたら映えそうなアットホーム感が漂ってきて、しいなと修の初々しいカップルを愛でつつ、「いいなぁ〜」とにやけながらページをめくってしまえるのです。
そしてこの作品の強力な推しポイントは「新潟」「燕三条」というキーワードがぐいぐい前面に出てくること。
「かんべー!」「しゃぎつけるぞ」「この、ぽんつく!」ところどころに挿まれる新潟弁がキャラの感情をよりビビッドに見せてくれますし、燕三条ラーメンだったりイタリアンだったり寺泊の海産だったりの越後グルメはどれもこれもが美味しそう。沼垂テラスや弥彦などの観光地も印象的に描かれていて、読者を「新潟に行きたいッ!」という衝動に駆り立ててくれるばかりでなく、燕三条に行ったらホントにしいなに、修に遭えるような気持ちにしてくれるんですよね〜。
もちろん、しいなと修の、「元気な子犬と静かな大型犬」のような初々しいカップルを眺めるところも本作品の読みどころ。惚気を延々と見せられているような、若干の胸やけを感じつつ繰り返し読んじゃえる、なんとも心地いい作品です。
職人町・燕三条に暮らし、伝統工芸・鎚起銅器の工場に出入りする金髪ギャル、それが本編のヒロイン・犬町しいなです。 ……うん、すごいギャップ。
「越後美人」という言葉のイメージとは正反対に、言葉遣いもファッションももちろんギャルそのもの、お客さんの前にへそ出しで現れてみたりと奔放で天真爛漫、面白いこと新しいことが大好きで、町工場とは似合わないプロフィールの持ち主なんですが。
無口で頑固でコミュニケーション能力に欠けた職人の中にしいなを放り込むと、お互いの思いが少しずつ通い始めて、鉛色の空のようだった世界にあたたかくて明るい日差しが差し込んだようになる、そんな貴重なキャラクターなんですよね〜。
見た目はギャルだけれど、家事はしっかりこなせるし、なによりも婚約者である修のことを大切に思い、彼の仕事を誇りに思い、そして彼を支えようとしている気持ちは本物。そんな一途さ、健気さがまた彼女の魅力になっていて、自然と応援したくなっちゃうのです。
そして何より表情豊かで、天真爛漫に周囲を振り回して見せる小悪魔のような奔放さが最大の魅力。
子犬のような人懐っこさと、子猫のような奔放さを兼ね備えた、金色の太陽のような魅力を持ったギャルなのです。
しいなの婚約者が、修。父の背中を追うようにして銅を叩き始め、今では展示会に作品を出品したり、旅館で使う銅器を任されたりしている、燕三条期待のホープです。
髪型を整え、大柄な体にスーツをまとえばなかなかサマになるイケメンなんですが、いかんせん身の回りのことには無頓着で、無趣味。無口で表情に乏しくコミュニケーションが苦手という、典型的な職人気質の持ち主だったりします。とにかくヒマがあれば銅を叩いているもので「妖怪銅叩き」なんてしいなに言われる始末。だけどしいなのことと、銅器づくりのことに関しては純粋で実直で、そこがなんとも爽やかに感じられるんですね。深紅の明るさを放つしいなと好コントラストを描く、鈍色の好青年です。
コミックスではおまけマンガとして、修のじーちゃんとばーちゃんのなれそめが描かれていまして、これがまた初々しくてかわいいんですよねー。今ではしいなに「ジジババはこえーし」と繰り返し言われちゃってますけれど。
じいちゃん、総一郎さんは修をそのまま老成させたような、無口で頑固な銅器職人。もう「職人」というイメージにそのまま服を着せたようなキャラクターですね。しかし頑固といってもけして他人を受け入れないわけではなく、しいなの奔放さに若干あきれながらも優しく見守ってくれる、背中の大きな先達なのです。
ばあちゃん、雪さんは若い頃は東京の大手百貨店で企画の仕事をしていたキャリアウーマン。今では番頭として、銅器工場の裏方一切の仕事を担っています。ファーストインプレッションは怖い鬼ババですが、その実、銅器職人の仕事を裏から支えつつ孫の婚約者であるしいなを教育する、包容力のある人です。
バイヤーの美登さんはしいなに言わせると「怪しい人」。確かにうさんくさいオッサンのような気がしないでもないですが、燕三条に根を下ろした修やしいなと、外の世界を繋げる貴重なナヴィゲーター。そして読み手である我々に銅器の世界を教えてくれる、水先案内人でもあります。
「新潟」「燕三条」「銅器職人」というキーワードを前面に押し出しつつも、ディテールはほどほどに、あくまでもキャラクターとストーリーを読ませてくる正統派作品です。まぁやっぱり新潟になじみや親しみのある方の方がより深く楽しめると思いますが。
キャラクターバランスはラブコメを期待させるものがありますがその実コメディとしてはパンチが弱めで、ホームドラマ的な楽しみ方をするのが正解だと思います。
2022.10