動物のお医者さん

(佐々木倫子/白泉社文庫・全8巻)

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Story

札幌の高校生・西根公輝(まさき)はある日、通りかかった大学構内でフェイスペイントをした謎の中年−漆原教授から一匹のシベリアンハスキーの仔犬を託される。
月日は流れ、何の因果か獣医学部に進んだ公輝と成長した仔犬−チョビ。
その周囲は漆原教授や公輝の祖母、超スローペースの菱沼さんらの存在で、いつもトラブルが絶えなかった・・・
脱力感あふれる独特のテンションで一世を風靡した、動物コメディの決定版。

Impression

10年ちょっと前にヒットした、動物コメディ作品です。最近ドラマ化されたりして、書店の平台でも再び目にする機会が増えて来ましたので、ここで大々的に紹介。この機会を逃すと、永遠に紹介する機会を失いそうですからね。
半ば忘れられかけたようなタイミングでドラマ化された事でもわかるとおり、古びないタイプのキャラクターコメディ。かくいう私も、引っ越しの荷造り時に思わず手を止めて読みふけってしまったり、古本の整理をしているうちにいつの間にか読み返してたり・・・と、年に一回は「『動物のお医者さん』にハマる週間」というのがやって来たりしまして(ちなみに2003年はもちろん今がそのキャンペーン期間なのです)、ま、そんな感じで再読性というか習慣性のある、飽きの来ないコメディ作品なのです。
強引な漆原教授、超のんびりの菱沼さん、ハイテンションで凶暴なミケなどなど、サブキャラクターはどれもゴーイングマイウエーな個性派。対するダブルメインの公輝とチョビはクールな常識人で、そのバランスがいい感じにまったりとしたおおらかなムードを作っており、さらにとぼけていて、かつディテールフルなテキストが豊富に挿入されているため、人間群像を描いたわかりやすく、知的好奇心を刺激する獣医エッセイのような作品になっています。
どぎついところはないけど、妙に印象的な好作品。独特のとぼけた雰囲気がいつまでも心に残って読者を離さない、動物コメディの決定版です。

Chobi

最近はチワワがブームらしいですが。
このマンガが連載されている当時は(このマンガのヒットに伴って)、シベリアンハスキーが大流行してたのですよー。
てなわけで、マンガ史に残る名犬、チョビの紹介です。・・・このコーナーで動物キャラを紹介するのって初めてではあるまいか。
大型犬。眼の縁に隈取りがあって、ファーストインプレッションは「般若」。公輝にじゃれついてると、「犬が人を襲ってる!」と誤解されるような強面の女の子です♪
でも、性格はおとなしく、漆原教授やミケといったハイテンションなキャラクターに対抗するがごとき物静かさ。遊んだりするのは好きで(漆原教授や学生らの遊び道具にされそうな事もありますが)、本能にスナオな部分もあるけれど、基本的にローテンションで常識的なキャラクターなのです。
しかし、その態度がちょうどハイテなキャラ陣に対するツッコミ役となっており、素直な性格から来るしぐさのかわいらしさと相まって、(犬であるにもかかわらず)読者がシンクロしやすいキャラクターになっており、結果→こんな犬と友達になりたーい!となってしまうんですね。
突出していないが故の存在感と言えるでしょうか。社会現象となったキャラクターには、その理由となるだけの物があるんだなー、となっとくしてしまう本作のヒロインであります。

Charactor

主人公・西根公輝は常識人。読者と近い視点からハイテンションな脇役を傍観するクールなキャラクターなんですが、彼を紹介してもしゃーないので、ハイテンション脇役陣を紹介するといたしましょう。
となるとその筆頭は漆原教授ですね。いきなりフェイスペイントという形相で現れ、公輝にチョビを押しつけるという強引さを発揮。そのあとも強引で大雑把、自らの欲望丸出しの言動で獣医学部を混迷の底に陥れる、当作品最大のエンジンとして活躍してくれます。
犬が出てくるなら猫が出てくるのは当然?というワケで、西根家の飼い猫がミケ。関西弁を駆使する、近所の女ボス、西根家の女帝。こちらも猫らしく、わがままさで作品の西根家パートを引っ張ってくれます。もうひとりの女帝、西根タカ婆さんも作品のひっかき回し役として欠かせない存在ですね。・・・こんな人、身内にいて欲しくない気もしますが。
ごくたまにしか出て来ないゲストキャラですが、犬ぞりレースでチョビとチームを組むシーザーのやる気一直線っぷりもなかなか印象大。クセのあるキャラが揃う中、とにかくやる気しかない単純さがいっそすがすがしく感じられます。

Guide

動物キャラも含めてのキャラクターコメディ。登場人物はいずれも分かりやすい性格なので、早めにその個性をつかんでひたすら笑いましょう。
十年以上前の作品ですが、時事ネタを殆ど扱っていないこと、動物中心のエピソードということもあり、古さは感じられません。
なお、絵柄は青年誌掲載「Heaven?」でもおなじみ等身の高いタイプ、動物キャラも過度なディフォルメやビジュアル的な擬人化はされていないので、「萌え」には期待しないように。

2003.6