(釜田・六つ花えいこ・vient/角川フロースコミックス・1〜5巻)
湖のほとりに庵を結ぶ魔女・ロゼはある日とある貴族の訪問を受ける。
その相手とは街に出かけた日、恋に落ちた相手、ハリージュ・アズムだった。
しかし彼の注文は彼女の淡い思慕を踏みにじるものだった。「惚れ薬を作ってほしい」「拒否権はない」。その言葉を受けたロゼの対応は……。
失恋から始まる、魔女と騎士とのロマンスストーリー。
どこかでこのタイトルを見た時に、「何それ? 面白そう!」と思った作品。なかなか手を出せずいたんですが、コミカライズされたということで買っちゃいました。
タイトルからは「ポップな作品なのかな〜」と予想していたんですが、読んでみたら落ち着いていてなかなかリリカル。パンチに欠けるかな〜、と思いながら読み進めているうちに、生真面目な騎士・ハリージュと、これまた真面目なんだけど世間離れしたロゼのやりとりがなんともユーモラスに感じられて、ぐいぐいと引き込まれてしまいます。
嘘をつけないという呪いをかけられた魔女という前提条件、惚れた相手に惚れ薬を注文されるというシチュエーション、堅物で生真面目な魔女と堅物で生真面目な騎士という取り合わせ、どこをとってもシリアスにしかならなそうで、実際シリアスベースでお話が進んでいくのに、読み進めていくとそのシリアスさが一周回って滑稽で、「???」となりながら読み進んでしまうのですね〜。
マイペースなロゼがハリージュの実直さ誠実さに、実直誠実なハリージュがロゼのマイペースさに翻弄されるところがなんとも面白く、いつの間にかくすくす笑いながら読んでいるのですよね〜。
うん、いいラブファンタジーだと思う。オススメです。
フードのついた黒いマントがトレードマーク、カールした無造作なピンク髪、湖のような緑の瞳に、無表情。
それが本編のヒロイン、「湖の善き魔女」、世捨て人のロゼさんです。
湖のほとりでひとりで生きてきたゆえ、ひきこもり気質と浮世離れした生活習慣がすっかり根付いていて、身の回りのことは一切構わないわ、主食はレタスだわで、こんなんでヒロインが務まるのか!? と誰かに問わずにはいられない、ヒロインらしくないヒロイン。ハリージュがいちいち構わないと気が済まなくなるのも、分かるってもんです。
しかし一目ぼれした相手であるハリージュにいちいち心を揺さぶられ、表情がないはずの瞳を翳らせる様には、共感させられちゃいますし、だからこそ、無表情という魔女の鎧にひびが入り、恋する乙女の表情が垣間見えた時には思わずドキリと、そしてキュンとしてしまうのです。
「嘘をつけない」という魔女の呪いを課せられながら、恋する気持ちを隠し通そうとする姿もまた胸キュンポイント。
魔女らしい神秘性と魔女らしくない乙女さを兼ね備えた、ミステリアスで目が離せないヒロインです。
当作品のヒーローであり、「惚れ薬」の注文主なのがハリージュ・アズム。
いやー、イケメンですねぇ。さらっさらの灰色の髪に力強いけど優雅につり上がった眉、切れ長の眼、ふた昔前なら「しょうゆ顔」とでも呼ばれていたようなノーブルな面相で、ロゼが「美しすぎて鳥肌が立つ」というのも納得のイケメンなのです。
いかも顔がいいだけではなく、貴族の家に生まれた超級のエリート騎士で、さらには人を産まれや育ちで差別せず、ニュートラルに見ることが出来る高潔な精神の持ち主で、さらに正しいと思ったことは歯に衣着せず口にする正直さの持ち主。
そりゃあ惚れますわ、ロゼじゃなくても惚れますわ、という、内面も外面も整ったイケメンなのです。
しかし、育ちが良すぎるゆえに堅物で、なんでも思ったことを口にしてしまう実直さがひと回りしてハリージュの個性というか面白さになっているのが楽しいところ。
浮世離れしたロゼと、堅物のハリージュは割れ鍋に綴じ蓋のような、ミスマッチに見えてなかなか楽しいペアなのです。
ロゼの庵に出入りしているのが出入りの商人・ティエン・コン。黒髪に狐のような眼、東洋風の衣装が、中世ヨーロッパ風の作品の中でオリエンタルな異彩を放ってますね。
ロゼのことを小さなころから知っていて、兄代わり、親代わりのような存在。……まあ、親とか兄なんて、娘にとってうざったい存在ですよね、という意味でも兄代わり、親代わりのような存在ですね……。
そんなわけでロゼのプライベートにずけずけ入り込んでくる貴重なキャラクター。ハリージュとは別の意味でロゼの心を波立たせる、ナイスな脇役なのです。
2025.6