(おおばやしみゆき/小学館ちゃおフラワーコミックス・全3巻)
チルこと高橋みちるは素直で無邪気な小学生。というのは外ヅラだけで、実は「上岡龍太郎のように弁のたつこども」。無邪気に振る舞おうとすればするほどストレスが溜まり、地を出しているところを見られてしまった相手が運悪く代理教師の青島先生。
この先生がまた、「先生になりたいと思ったことがない」「こどもだって好きじゃない」というとんでもない先生。
しかしチルはそんな先生が気になりはじめて・・・
おおばやしみゆきさんの、切なくて、笑える初恋ストーリー。
「カードキャプターさくら」「夢幻伝説タカマガハラ」と立て続けに小学生ものにはまってるので、「こりゃあやばいかなあ・・・」と内心思っていたところに、うーん。チル登場。もーだめ。「うははははは、これからはオレのことをロリコン酔いどれ男びぜんやと呼んでくれ一!」と開き直ってしまうのだ。
で、チルのこのクールさがたまらんのだな。何か一歩引いてるようなある種の無関心さが、年長の読者にはかえって惹かれるのではあるまいかと。それでいて、無邪気そうに笑ったときの笑顔とのギャップ。
さらに輪をかけて、初恋にとまどい、それでも止まらないチルがせつなくていいんですよぉ。そのひとつひとつの表情がぐっときて、初恋なんてキレーなものは数万光年の彼方へ飛ばしてしまったヨッパライでさえ、心の中のアセトアルデヒドが浄化されていくようです。
「ああっ、チルのよーな女のコに俺も振り回されたい!」という内底からわき上がる衝動を抑えることなど、もう不可能になってしまいますねえ。
先生に憧れ恋に戸惑うチルもいいけど、顔で笑ってみせるけど、心は・・・の「うそつきチル」ヴァージョンもよいです。
自分でも、こんなにコミックのキャラクターに感情移入したのは初めてじゃないかなぁ。下欄で「比較的感情移入しやすい作品」なんて書いたのは1月だったんですが、いやあ、自分でもここまで入り込んでしまうとは・・・同じさそり座だからかしら(同じうそつきの間違いでは)。
チルの純粋で、一途な初恋がヨッパライの汚れた胸をきゅきゅんと締めつけるんですよ。あうう。
青島先生
10歳以上(20歳近く?)年下のチルからも「かわいー」と思われる子供っぽい先生。チル(いや、松野でもいいんですけどね)とふたりでいると、「かわいいカップル」みたいで、好きです。でも友達や同僚にこんな人がいちらちと辛いかも。(他人のことは言えないが・・・)
松野
チルのライバル。なんかえらい悪しざまに書かれてますね。でもストレートでいいんじゃないかなあ、と。屈折してるのに、ストレート。意味不明な表現だけど。なんか年齢相応の反応で。「恋心だから!」って宣言しちゃうシーンとか、自分の恋に夢中になっちゃう年頃の雰囲気が出てます。
光
チルの妹。幼稚園児のわりにはしっかりしてますなあ。「あの」お母さんの教育の賜物?まあ、子供は周囲の環境とか家族をすごく素直に映しますし・・・
しーちゃん&ミホミホ
チルの友達。まあ、分かりやすいというか、お節介焼きというか、無邪気というか。
河井くん
演劇部の変わり者。チルよりかわいいかも。多分。わき役の中でもばりばりに目立ってるわりに、終わってみれば「なんだかなー」みたいな役割なので、ちょっと寂しいかも。
まどか先生
青島先生の同僚にして理事長の娘。「美人でグラマー」。このヒトもかわいい顔して思ってことと言ってることにギャップがあったりするので、よく見てると面白いです。
仁科先生
ジャージに眼鏡のさえない先生。まあ、「常識側」の代弁者という役割ですね。キャラクター的にわかりやすくて、かわいいかも。んなこたないか。
チルのお母さん
チルのお母さん。まんまやないかい。チルに厳しく接している部分ばかり出てきて、救いがないような気がしますけど、女手一つでチルと体の弱い光を育てているんだから、大変なんでしょうね。そういう部分が出てくれば読後の印象が違うんだろうけど・・・
第1話
チル、青島先生ととんでもないキャラクターが連発で登場。いいなあ。チルの切り返しのうまさがテンションを高めております。
第2話
双子山登山編。考えてみたらイベントも乗ってこのエピソードだけなのね。チルと先生のナイスコンビ結成!と言う感じ。
第3話
チルの家庭の事情、松野の気持ち、話の骨格がこの辺で出そろいます。それにしても先生がこんなことでいーのか?
第4話
チルが先生のことを明確に意識しだすのって、「青島先生ラブ」のひとことからなんですよね。かあとなったチルがかわいいです。「口ゲンカの勝ち方」も面白くて、○。
第5話
先生の気持ちが分からなくて揺れ動くチルの心。このへんの描写が絶妙で、ヨッパライのココロにピンポイントで刺さってきます。さあご一緒に、「パルク」(意味不明)
第6話
今回(あるいは前回もかな)のエピソードすべてがラストの「誰にきらわれてもいい/先生が私を好きでいてくれるのなら・・・」に収斂する形で、ラストシーンに鮮烈さが感じられます。あうう。
第7話
いつもはうそつきなのに、こと恋に関しては隠し通せないチル。それでもがんばるんだな。結局うそにうそを重ねて、辛いシチュエーションになったりもするけど・・・うーん、恋してる女の子ははんぶん不思議。
第8話
松野に協力する約束をしてしまったチルは・・・チルのせつなげな表情がたまんないのよ。ほんと、読んでいて感情入っちゃいます。河井くんも本格登場。
第9話
「こーして小学五年生による修羅場が始まったのだった・・・」のラストがいいなあ。チルの頭突きもいいです。テンションがいよいよ高まってきますねえ。
第10話
「好きだよっ!」て告白のシーンがほんと、月並みな表現だけどじんと来ます。「見てるだけってゆーのもやめた!!」「ちゃんと口と口だもん」名セリフの連発。このシーンのすべての言葉が心地よい痛みとなって胸に刺さるんですよね。
第11話
チルが自分の心に素直に生きていこうと決めて・・・という話かと思えば今度はまどか先生が!!!一体どこまで嘘に嘘を重ねていくんだこいつら!という感じです。
第12話
いよいよ大変なことに。ラストの方でチルの笑顔が出てくるけど、なんか笑顔を見るの久しぶりかな、って感じが。テンションのわりにテーマやシチュエーション重いからなあ、この作品。からあげのシーンのふたりがかわいくって、いいです。
最終話
いきなり崖のうえに立つふたり。おいおいおいそーじゃねえだろう。という感じですが。作者のおおばやしさんは「中途半端に終わっている」と書いているし、実際このキャラクターたちでいろいろなエピソードがあるんだろうけど、チルの初恋ストーリーとしてはうまくまとまっていてよいのではないかと。お布団の中のチルがかーいーです。キスシーンのあとの「ぽっ」となったチルとか。ああっ、さらにサービスシーンまでっっっ!
「ちゃお」の掲載作品は対象年齢が低いだけに、思考レベルをそこまで下ろして行かないとついて行きづらかったりしますが、この作品はチルの性格が性格なだけにノープロブレム。そのまま行きましょう。
比較的感情移入しやすい作品なので、ここはチルの気持ちになってレッツゴーですね。
1999.1
1999.3