(渡辺多恵子/小学館別コミフラワーコミックス・1〜40巻)
壬生浪士組−のちに「新撰組」の名を名乗ることになる佐幕派浪士団のもとに、新入隊士が加わる。その名は、神谷清三郎。父と兄を攘夷派に殺された彼は、その仇を討つために浅葱の羽織に袖を通したのだった。
しかし、清三郎はある日、とんでもない秘密を副長助勤・沖田総司に知られてしまう。
清三郎、実は本名を富永セイという女の子だったのだ。果たしてセイはアラっぽい男の中に身を置いて本懐を遂げることが出来るのか・・・
久々に面白い歴史物を読んだぞー!という気分になった一作でした。1巻目を開いてから最新刊までまさに一気読み。
コントラストが強く、構図が巧みで映画的な画面を追いながら、いつしか心は新撰組の一員となって、京の町を駆け回ってしまう、そんな感じでぐぐっとはまってしまいました。
その大きな要因はディテールのよさ。巻末のおまけマンガで作者が再三延べている通り、少女マンガ離れしてはっきりしたディテールと、歴史の流れを外さない安定したストーリーの流れが、繊細かつ流麗な作品世界を作っていて、非常に手応えのある作品になっているんですね。例えば刀の造作とか、食生活であるとか、そういう事が物語に厚みを加えるいいアクセントになっていて、思わず「巧い、巧い」と手をたたいてしまいました。
しかしディテールばかりの重苦しい作品かというとさにあらず、その一方で、少女マンガらしく、キャラクター重視のエピソード造りになっており、維新派の動きはあえて細かく触れたりせず、沖田とセイというふたりの心の動きを時にコミカルに、時にシリアスに描いて、入れ込みやすい作品になっています。
セイと沖田の漫才のようなやりとりはもちろん、「性格に難あり」の芹沢とか、鬼副長でありながらどこか憎めない土方とか、つかみどころのない斎藤とか、一癖も二癖もあるキャラクターを要所要所でエピソードに絡めてきて、賑やかで楽しい雰囲気をつくっており、本来作品が持っているテーマを巧い具合にオブラートで包んで、読者の前に差し出してくれ、飲み込みやすいストーリーにしています。
とにかく読んだら読んだたけの物が心に返ってくるという感じで、満足感たっぷりの作品です。
主人公のセイちゃんはナリは男だけど立派な女のコだし、明里さんという女性も出てくるんですが、う〜ん、ここはあえて沖田を押します。
実際のところ、新撰組の人物としては土方や山南ほど好きじゃないんですが、この「渡辺・総司」は別。
な〜んかつかみどころのない感じで、のほほんとしたキャラクターなんですが、いざ剣を握れば風となって一瞬のうちに敵を両断する、その切り替えが絶妙で、ぐぐっと魅力的に感じられてくるんですよね。まさに笑って人を斬る「鬼」。その感じが余すところなく表現されていて、ぐぅです。
そしてそんなシーンの一つ一つに、色気があるところがいいんですよね。女性読者はもちろん、男性もぞくぞくっとしてしまうような中性的な魅力があります。
やはり主人公・清三郎ことセイちゃんを忘れちゃいけないでしょう。
とにかく新撰組の猛者たちとは正反対の性格。几帳面で生真面目、一本気。なんかA型の典型、という感じで、他の隊士との対比が楽しいキャラクターですね。でもそんなところが応援してあげたくなるんだよな〜
いつものほほんの斎藤一もいい味出してますね。沖田が動的なすっとぼけキャラとすれば、斎藤は静的なすっとぼけキャラ。何が起きても柳に風、というムードが作品にいいリズムを作っています。
ひねくれっぷりが楽しいのが土方歳三。セイとの水と油のような掛け合いとか、思ってることがぜ〜んぶ沖田に筒抜けのところとか・・・なんとなく憎めない偏屈さがいいのです。とにかく数多いキャラクター同士の掛け合いが楽しいんですよね、この作品。
基本的にキャラクター中心のエピソードで構成されており、歴史を知らない読者でも取っつきやすくできています。とはいえ、教科書に載ってるくらいの歴史の流れは抑えてから読んだ方が楽しめるのも確かですね。
特に引っかかるような感じもなく、軽快感に溢れた作品ですが、一部に男×男の恋愛が出てくるのは一部の人には抵抗あるかも。男×男と言ってもディープなものではなく、あくまでコメディ要素のひとつとして描かれているので、大半の人は笑って流せると思いますが・・・どうなんでしょう。
2000.6