化粧した男の冒険
−メルカトル鮎の事件簿−

(風祭壮太・麻耶雄嵩/秋田書店サスペリアミステリーコミックス・全1巻)

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Story

麻耶雄嵩(まや・ゆたか)さんのミステリー短編集「メルカトルと美袋(みなぎ)のための殺人」をコミック化。
避暑地のペンションで刺殺された男はなぜ、死後、化粧を施されていたのか?そして彼を殺した犯人は・・・?魅力的な謎に満ちた表題作をはじめ、4つの難事件を、タキシードにシルクハット、そして奇矯な言動の銘探偵・メルカトル鮎が鮮やかに解決する。

Impression

銘探偵・メルカトルあゆと、ワトソン役の美凪三条が繰り広げる・・・・・・違うッ、銘探偵・メルカトル鮎と、ワトソン役の美袋三条が繰り広げる痛快な推理劇です。
ミステリーとしては明快なロジックで謎を解く、読みやすいタイプの作品なんですが、この作品を決定づけるのはそんな部分ではなく(いや、もちろん魅力的な謎とあっと驚く謎解きというミステリーとしての魅力は十分以上にありますが)、傲慢不遜で探偵としての倫理観をかけらも持ち合わせていない、メルのキャラクター。
探偵としてはあまりに異質なこのキャラクターが、周囲を困惑と憎悪の渦に巻き込みながら、最後にはスパッとを謎を解いてみせるあたりが逆説的な痛快感で、漆黒の快さが胸を躍らせるんですよね。
自称「長編に向かない探偵」の鮮やかすぎる解決を楽しめます。
・・・さて、この本に収録された作品の原作小説「メルカトルと美袋のための殺人」、書きかけのままほったらかしにしてたらコミック版の方を先に紹介しちゃったなぁ。こっちもがんばって書かないと・・・(汗)

Mercator Ayu

謎を鮮やかに解決するだけの名探偵ではなく、人々の心に深く残る「銘探偵」を自称するだけあって、規格はずれで良くも悪くも印象に残る探偵ですね。
タキシードにシルクハットという、コスチュームもさることながら、その不敵な表情、傲慢な言動も印象的。さらには死体を蹴飛ばしてみたり、殺されそうな依頼者を募集する広告を出してみたり、その行動には倫理観のかけらもナシ。
一応彼なりにそれらの行動にも理由があるようで、エピソードの結末で事件が解決すると同時に、その行動の謎も少し解き明かされたりするんですが、その理由があまりに直接すぎるあたりがなんとも痛快だったりしまして、いやいやメルの思惑どおり、心に深く刻まれてしまいます。

Guide

よくも悪くもメルの性格の悪さが印象を左右するこの作品。こういう「黒い」キャラが好きな方ならかなり楽しめるでしょうし、「正義の探偵」像を求める方にはNGでしょうね。ある程度割り切りが必要だとは思います。
基本的にキャラクターの面白さと、スパッとした切れのいい謎解きを楽しむ作品ですね。絵柄で楽しめる人もいるでしょうが。まぁ、それ以外の要素は期待しない方がいいというか、そこまで期待する必要がないというか、そういう作品です。

2001.10