私を球場に連れてって!

(うみのとも・スーパーまさら/芳文社まんがタイムKRコミックス・1〜2巻)

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Story

高校に入学した野原玉は、新しいクラスに入っていきなり、埼玉ホワイトキャッツファンの同級生・レオナと、福岡ファルコンズファンの同級生・ファル子が言い争う場面に遭遇する。
それに巻き込まれた玉は、ふたりに拉致されキャッツの本拠地・キャッツドームへ。
そこは球場飯、応援歌、球場飯、ファンクラブ、球場飯……そんな「野球のある日常」という楽しい泥沼への入り口だった。

Impression

埼玉県所○市あたりのJKが飽きず懲りずにドーム球場に観戦に行く、というどこにニーズがあるんだか分からないような、いや案外ニーズは豊富にありそうな、そんな野球観戦萌え四コマここに降臨。
どこにニーズがあるんだか分かりませんが、「週刊ベースボール」誌を30年来愛読し、新婚旅行が福岡ドームだったという野球バカの私には結構フィット。「いや、俺別に埼玉西○ライオンズは好きじゃないんだよなぁ〜。パは楽○、セは中○なんだよなぁ〜」と呟きつつ、黒髪レプリカユニ女子高生の魅力にころりとやられてうっかりジャケ買いしてしまいました。ちなみにうみのともさんの前作・「そよ風テイクオフ」もうっかりジャケ買いしたりしています。
「まぁ、きららの作品だし、女のコ同士が百合ムード漂わせつつ、のんびりまったりキャッキャウフフしてるんでしょ」、というこちらの予想を左翼席までかっ飛ばし、ホワイトキャッツファンのレオナと、ファルコンズファンのファル子が常々仲良くけんかしているところがこの作品のポイント。このへん、巨○ファン(父)と阪○ファン(母)と中○ファン(私)と横○ファン(ヨメ)と西○ファン(弟)というカオスな家庭環境にいる私としましては、すんごく親近感を感じる部分だったりします。
出てくるネタがちゃんと読者がついてこられるか心配なほどマニアックだったり、なんでも野球に例えてしまうレオナとファル子があまりにも野球脳すぎて天を仰ぎたくなっちゃったりしますが、そこは野球素人のヒロイン・タマがしっかりと中和して、うまい具合に微笑ましく読みやすく仕上がっているんですよね〜。
かわいくていきいきとしたムードにつられつい、「野球観戦って、いいかも」「野球のある生活って、楽しそう」と思わせてくれる作品で、うん、こういう作品は案外貴重だと思うんですよ。
緩急を使い分ける技巧派投手のように、起承転結がしっかりしていて、4コマ目でしっかり落としてくるオーソドックスな配球も好感度大。
これを読んで「球場に行ってみたい!」と思う人が何人出てくるかは若干不安にならないでもないですが、野球脳なら「野球が見たい! 球場に行きたい! 球場飯が食べたい! 誰かと野球のことを語り合いたい!」と左中間方向に雄叫びを上げたくなること間違いなしの個性派萌え四コマです。

Tama Nohara

レオナによると、「顔良し」、「胸良し」、「大食らい」、「料理上手で女房適正◎」、「成績にすると守備位置は捕手、.330 34本 119打点 年俸4億円って感じ」の優良物件。それが今作品のヒロイン・野原玉ちゃんです。
セーラー服の似合う、正統派の黒髪美少女おとなしめ系。……なんですが。登場時自分でも「私って地味だから」ってモノローグ入ってる……んですが。
やがて球場飯のことになるとリミッターが外れ、「壊れた信号機」となってしまう大食漢ぶりが露呈。さらには隠れSな本性が見えてきて、野球バカなふたりの同級生・レオナとファル子に対するツッコミ役(時には煽り役)としてフル回転。ついでになぜか打球を引き寄せる不憫キャラというアビリティもついてきて、実はなかなかいいキャラしてるんですよね〜。
読んでいる方としては「地味キャラってなんだっけ……」「昔は正統派美少女だと思っていたよな……」と、AKD砲華やかなりしころの森西武黄金期を思い出すような遠い目になっちゃうんですが、いやいや、不憫隠れドS巨乳という、外崎−山川−森−中村の豪華打線みたいなこってりしたこのキャラクターが実に楽しくて惹かれちゃうんですよね〜。
天真爛漫な笑顔で、勝敗のあれこれとかを忘れさせてくれる純粋少女。こんな女のコと野球観戦出来たら…………そりゃ最高ですよね!

Charactor

埼玉ホワイトキャッツのポニーテール少女が西武玲央奈(レオナ)ちゃん。みためどおりのボーイッシュ(スタンドに行くとむしろオッサンくさい)な快活少女。小テストの結果を「3割5分」なんて言っちゃったり、ヒマ潰しとして思いつくのが野球しりとりだったりという野球脳っぷりに親近感持てますね〜♪ Bクラスに低空飛行していても、FAで選手が流出しても、明日にはけろっとしてるメンタルのタフさもまた、野球好きらしいのです。
油断してると博多弁出ちゃうところがもうたまらなくかわいいのが、福岡ファルコンズファンの博多っ娘・大栄春子(ファル子)ちゃん。ふわっふわの金髪がかわいい美少女で、福岡遠征の費用を稼ぐためにビールの売り子をしているというけなげな女のコ。まぁ、黙ってりゃほんとにかわいいんですが、いちいち高飛車でいちいちめんどくさいのが玉に瑕。いや、ファル子ちゃんの場合はそのめんどくささもかわいいんですよね♪
丸地猫子ちゃんはキャッツドームでの観戦歴が7年という、8歳の小学生。いろいろアクの強いJKトリオに対して、このコのクールさが一服の清涼剤だったりしますが、その実、野球脳っぷりではレオナに負けてなかったりします。ちなみに猫子ちゃんの同級生が番場くれあちゃんに、玉ちゃんの妹・野原照(テリー)ちゃん。
ドミンゴ・マルチネス、タイラー・リー・バンバークレオ、テリー・ウィットフィールド、なんて元ネタ、完全に若い人を置き去りにしてますよね……
完全に余談ながら、四十代的には玉ちゃんのお父さんの不憫さがなんとも心に沁みます。

Guide

四コマとしてはすごくシンプルな作りで、起承転結でひねりなくきれいにまとめてくるパターン。オーソドックスなホーム四コマ的にシンプルに楽しめます。
一方でハードルが高そうなのが、野球観戦ネタ。なんせオチがいちいち野球バカすぎるので、最低限、ペナントレースの結果を日々チェックしているくらいでないと、小ネタについていくのは大変かもしれません。
もっとも野球知識を要求されるネタはそんなに多くはないので、かわいい絵柄に萌え萌えしつつ、雰囲気で楽しむのも大丈夫じゃないかな〜、と思います。

2019.7