政宗さまと景綱くん

(重野なおき/リイド社SPコミックス・1〜2巻)

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Story

時は戦国末期。羽州・米沢城にとある主従がいた。
独眼竜と恐れられた奥羽の覇者(料理好きで酒には弱い)・伊達政宗と、知略に優れ秀吉にも目をかけられた軍師(ドSで政宗いじりが趣味)・片倉小十郎景綱。
そのふたりを中心に、個性あふれる伊達家の面々や、ひと癖もふた癖もある奥羽の群雄をコミカルに描き、北の戦国史を楽しく描いた歴史四コマ。

Impression

このサイトでは紹介していませんが、案外歴史小説とか好きだったりします。
じゃあ好きな戦国武将は? と訊かれたら、答えはノータイムで伊達政宗。そりゃぁ、仙台っ子ですもの。
というわけで、歴史四コマの第一人者・重野なおきさんが政宗を主人公に新作を著したと聞き、書店に突っ込みました。
勢いのいいセリフ回しで進み、最後に気持ちよくオチが決まる重野節はここでも炸裂。ドSな傅役・片倉小十郎景綱のえげつないボケに政宗が豪快にツッコむテンポが心地よく、くすくす笑い続けながらページをめくってしまいます。
政宗と言えば、幼少時に右目を抉り取った逸話を皮切りにめったやたらと無駄にエピソードが豊富な武将で、青年期は南奥羽の諸将、長じては秀吉や家康ら老獪な天下人らこちらも無駄に濃い面々と丁々発止を繰り広げてきた人物。それだけに料理が難しく、政宗を描いた小説を読んでも「?」となることが少なくなかったんですが、この作品は問題なし。
個性的な臣下やひと癖もふた癖もある好敵手を必要以上に濃く描き、それぞれの個性を際立たせる魅力的なエピソードを添えつつ、さまざまなエピソードを分かりやすく書いてくれて、膨大な情報をすんなりと呑み込ませてくれます。

Masamune and Kagetsuna

本編のダブルメインとなるのが伊達政宗とその傅役にして名参謀・片倉景綱
ここは当然、主たる政宗から紹介すべきところでしょうが、この作品で悪目立ちしているのは従たる景綱のほう。頭脳明晰沈着冷静な名参謀としての片鱗を示し、読者に状況を提示するナヴィゲーター役としての存在感も大きいのですが、より目立つのは政宗さまを教育すると称して、政宗さまで遊びまくるドSっぷり。いや、政宗さまばかりではなく、義姫だったり、愛姫だったり、左月斎だったり、成実だったり、味方であればだれでも手玉に取って遊んでしまう大胆さでこの作品のエンジンになっています。いつも表情を変えず、飄々としたキャラも魅力。なんとも人を食ったような、キャラの立った名参謀なのです。
傅役がこんな有様なのですから、政宗さまの役どころは景綱に対するツッコミ役になってしまいますね〜。「奥州の覇者」「独眼竜」と畏れられた史実の通り、野心に溢れた武将として描かれてはいるのですが、メインとなるのは見事なまでに景綱に振り回される役どころ。あとは天下統一よりも伊達家興隆よりも料理に命を懸けるシェフっぷり。「あと10年早く生まれていれば天下は政宗のものだった」という声も聞かれますが、このマンガを見ると「料理に夢中にならなければ天下は政宗のものだった」と思えてしまいます。

Charactor

本作のヒロインといえるのが政宗の正室・愛姫
いつも大きく黒い目を見開き、まなじりを釣り上げた不敵で強気な表情が印象的な黒髪パッツン姫なのです。
登場当初は坂上田村麻呂の末裔という出自を笠に着た世間知らずの御姫様、という感じでしたが、のちにはストーリーをしっかりナヴィゲートする常識人的なポジションに収まってたりします。なにより魅力は男気溢れる強気なキャラクター。世間知らずゆえのまっすぐさが気持ちいい直情姫なのです。
知の小十郎(景綱)と並び称されたのが、武の成実こと伊達成実。戦国武者らしい猪突猛進のキャラクターが、腹黒でドSな景綱といいコントラストになっていますね。しかし、猪突猛進で退くことを知らないゆえに、退くことが出来ない毛虫や百足を兜の前立てにしたという説話があり、結局目立っているのは毛虫愛にまつわるエピソードばかり。もう少し何とかならなかったんでしょうかねぇ。面白いからいいけど。
炎の若武者・政宗と好対照をなすのがその父・伊達輝宗です。いつも穏やかに笑っている好々爺、というイメージがぴったり来ますが、それでいて政宗に対する強い信頼と、伊達家の興隆を願う強い意志が垣間見えて、そこが印象に残ります。それ以上に印象的なのは鬼嫁・義姫に対するらぶらぶっぷりだったりするのですが。
個人的にお気に入りは「羽州の狐」と呼ばれた謀将・最上義光。政宗の叔父であると同時に、伊達家を背後から窺う難敵というポジションで、大河ドラマ「独眼竜政宗」では原田芳雄が好演していましたが、この作品でも智将ぷりをいかんなく発揮。その豪傑ぶりにも触れられているのですが、エピソードの大半を占めるのは「鮭好き」という一点のみ。鮭の皮をお膳に残した妹・義姫に激怒するあたり、親近感を感じるのですよね〜。伊達家の隙を伺いつつ、内政は手堅い実務者ぶりがルックスといいコントラストになっていて、多面的な魅力を持つキャラクターに描かれています。

Guide

誰でも知っている全国区の武将は政宗くらいですが、各キャラの個性づけや描き分け、キャラクター説明がしっかりしているので、歴史に多少の興味がある人ならすんなり楽しめるのではないかなと思います。
渡辺謙が政宗を演じた大河ドラマ「独眼竜政宗」を見ていた人なら、「あ〜、鬼庭左月。大河ドラマではいかりや長介が好演してたんだよな〜」ってな感じでさらに楽しめるような気がします。

2019.2