おやすみメモリーズ

(笹木一二三/小学館ちゃおコミックス・全1巻)

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Story

片思いしていた幼なじみに「彼女できたんだ」と告げられた織は、不思議な少年に連れ去られるように、傷心を抱えたまま海へ。少年・智鹿太郎は、海辺でごみ拾いをしながら、「シーグラス」を集めているのだった……「おやすみメモリーズ
扇は合コンに行きたくないばかりに、友人・港人とつきあうふりをすることに。だけどそれがなんだか心地よくて……「うそつき彼氏
万年学年2位の逸美は、学年1位の真継に勉強を教えてもらおうとするが、真継の勉強法はあまりにも独創的なもので……「ライムブルー、赤く
学園生活と初恋を、リリカルに色鮮やかに切り取った、珠玉の短編集。

Impression

初版のオビには「ちゃおが自信をもってお送りするミラクル新人」の文字があるんですが、なるほどなるほど、「ちゃお」らしからぬなかなか豪腕のルーキー登場、という感じですね〜。
失恋から始まるストーリー。
そのあとは「ちゃお」らしく、清く正しく明るいコメディタッチなラブストーリーになるんだろうな〜、と高をくくって読み始めたんですがなんてこったい。
失恋のダメージを延々と引きずったまま、それでも読者をぐいぐいとチカラワザでストーリーの奥へ奥へと引っ張っちゃうんですから、これはまさに新人離れした膂力。
その引力は、時に挿まれるちくちくとした心理描写や、軽い切れ味のあるコメディ描写に拠るところも大きいんですが(個人的にこのへん、「ちゃお」の先輩マンガ家・おおばやしみゆきさんに似た雰囲気を感じます)、それ以上に、自分の中のドロドロとしたものと向き合おうとするキャラクターの青さが魅力的で、そこが読者を惹きつける力になっているんですね〜。
信州の山奥で読んでいながら、冬の海の匂いが伝わってくる好作品。
子ども向けと言うにはもったいない、ビターな感じがおいしいデビュー作です。

Charactor

表題作「おやすみメモリーズ」のヒロインが、蘆名織ちゃん。落ち込んだり、泣いたりというシーンが多くて、マンガのヒロインとしてはちょっと異質なタイプの女のコですね〜。
しかしその本質はからっとしていて、自分の弱い部分としっかり向き合うことの出来る、強い女のコ。だから、「守ってあげたい!」というよりは、悩みを一緒に共有して、一緒に進んでいきたくなる、そんな等身大のヒロインなのです。
後日談の「そのごのメモリーズ」ではクールでナイスなツッコミ役としての才能が開花。短編のヒロインとして終わらせるのはもったいない、これからの成長を見守りたくなる、存在感たっぷりのキャラクターです。
「うそつき彼氏」に登場は、きらっきらの大きな瞳が印象的なちゃん。清く正しく明るい少女マンガらしいヒロイン! というルックスですが、笑顔の裏はクールで、ちょっとダル。そんな二面性が実にいいんですよね〜。些細なことに照れて、すぐに真っ赤になっちゃうところも実に初々しく、ページをめくるごとに身悶えしながらその表情を追ってしまいます。
黒髪のショートボブにきりっとした瞳、万年成績2位から抜けだそうとするがんばり屋さんが「ライムブルー、赤く」の小野瀬逸美ちゃん。いかにもマジメな地味ッ娘! というタイプだけに、ささやかな喜怒哀楽に感情移入したくなる女のコですね〜。黒板に手を伸ばした姿や、華奢なボディがはかなげで、守ってあげたくなる女のコです。

Guide

カヴァーのイメージそのままに、ちょっと独特の読後感がありますね。正直、「ちゃお」らしくないな〜、というのが率直な感想です。
本質的には万人受けするタイプではなく、ついてこられる人だけついていくタイプの作品と思いますが、キャラクターに感情移入しやすいので、意外と読めますね。
とはいえ、新人さんの作品ということもあって、やはり少女マンガ中級者以上が手を出すべき本でしょう。

2014.3