のぶながちゃん公記

(くりきまる/竹書房バンブーコミックス・全3巻)

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Story

尾張織田家の跡取り・信長は、美濃・齋藤家から帰蝶姫(濃姫)を嫁に迎えようとする直前、突如逐電する。
慌てた父・信秀と家臣の平手政秀は、窮余の策として信長の身代わりを仕立てて祝言に臨ませることにしたが、なんとその替え玉は女のコだった。
戦国の史実を巧みに織りまぜながら展開する戦国替え玉アットホームコメディ。

Impression

歴女ブームを当て込んでか、ちょっと畑違いにも思える「まんがくらぶオリジナル」誌で掲載されている戦国四コマです。
まぁ、正直なところ、萌えるかというと、んん〜、まぁかわいいとは思えるけど破壊力があるというわけではなし。
じゃあ歴史もの、信長が主人公なんだから燃えるかといわれれば、「くらオリ」掲載作品にそれを期待できるわけでもなく。
しかしじゃあつまらないかと言われれば。
いやいや、全然。とても楽しく、読んでいて思わず頬が緩んじゃう四コマ作品なんですよね〜。
信長に関する歴史上のエピソードをふんだんに絡めながらも、教科書的な堅苦しさはなく、天真爛漫なのぶながちゃんとツンデレな帰蝶ちゃんのかけあいの中で、あくまでアットホームな流れで進んでいくのがミソ。それだけに、教科書に書かれていないエピソード、伝記や歴史小説に書かれていても頭に入ってこないエピソードが、すんなり胸の中に下りてくるんですよね〜。
それになんといってものぶながちゃんと帰蝶ちゃんのカップルは、一応百合カップルでありながら、ほんものの新婚さんのような初々しさ、微笑ましさがあって、新ジャンルのにやにや感が漂ってくるのです。
ディテールとライトさを兼備した、歴史好きな人もそうじゃない人も楽しめちゃう戦国コメディ。
一粒で何度でも楽しめる……いやいや、ひとつのお重をさまざまに楽しめる、尾張名物ひつまぶしのような四コマです。

Nobunaga-chan

本編の主人公が「のぶながちゃん」(本名不詳)。
信長失踪の秘密を知ってしまったばかりに、影武者に仕立てられてしまったちょっとかわいそうな境遇の女のコです。
が、のぶながちゃんはそんな境遇にめげることなく、武芸に励んでその大役をこなそうとしているんですから……天晴れですねぇ。
しかしまぁ、見かけは武士になり、武芸に励んでいるとは言ってもそこは女のコ。
うっかり女湯に入ってしまったり、真っ赤な衣装で評定に臨んだり、南蛮菓子に目がなかったりと、年頃の女のコらしいところもしっかり見せていて、思わず頬が緩んでしまいます。……まぁ、そんなことばかりやっているから、周囲からは「うつけ」と呼ばれてしまうわけなんですが(笑)。
そしてその行動原理は、武士の常識にとらわれない合理性と、母性本能から生まれる家族を思う気持ち、平和への願い。それがうまく実際の織田信長の事績とリンクしていて、読んでいると思わず「もしかして……本当に織田信長って、女のコだったのかも」って気持ちになっちゃうんですよね〜。
もちろん、黒髪ポニーテールの髪形と、満面の笑み、豊かな表情がつくる、中性的な魅力もチャームポイント。
帰蝶ちゃんにアタマが上がらないところもまた、チャームポイントですよね。

charactor

のぶながちゃんの奥さんが、帰蝶ちゃん。のぶながちゃんが女のコだとも知らず、気持ちいいまでのツンデレっぷりを発揮してくれる新妻です。言動は父・斎藤道三譲りの強気一辺倒で、とにかくプライドの高いお嬢様。それだけに、甘いものに目がない素顔や、ひとにからかわれるとすぐ真っ赤になるシャイさを時折垣間見せられると、ドキッとしちゃうんですよね〜。
いいキャラしてるな〜、というのが人質の竹千代。のちの徳川家康であります。のぶながちゃんに必要以上の接近遭遇を試みようと、脱衣所に忍び込んだり、風呂場に乗り込んだりと三河のエロ河童ぷりを発揮。しかし、のぶながちゃんにいくら殴られ、しばかれ、刑場に引きずられて行ってもしぶとく生き残っているあたり、戦国を生き抜いたしたたかなタヌキの片鱗が見えていますね。
準レギュラーながら存在感があるのは、帰蝶ちゃんのパパ、斎藤道三。「美濃のマムシ」の異名をとる強面で、織田家のライヴァルではあるんですが、帰蝶ちゃんに対する親パカっぷりで、イメージはガタ落ち。しかしその一方で、のぶながちゃんのよき理解者でもあり、なんとも印象に残るお義父さんなのです。

Guide

戦国を舞台にしつつも、あくまでアットホームな、ちょっと百合テイストの四コマ、という感じ。歴史に興味がない方でも、問題なくなじめると思います。
が、実際の織田信長の事績をアレンジしたエピソードが多く、その蘊蓄もしっかり。やはり教科書より一歩踏み込んだ知識を持っている方が、さらに深いニヤリ度を得られると思います。

2012.10