セツナカナイカナ

(こがわみさき/エニックスステンシルコミックス・全1巻)

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Story

他人の心が読める少女・相田さんと自己表現が下手な少年・黒川の出会いを描いた表題作、犬嫌いの転校生・スグルと愛犬家の唄子、そして伝説のわんこ様の物語「おあずけわんこ」など、ファンタジーのエッセンスを加えた、優しい出会いの物語五編を収めた、ハートフルな短編集。

Impression

淡い。
カバーを見ればその色合いは、あまりにも淡い。
ページを開いても、絵柄は今はやりのアニメ調というかゲーム調というかのこってりシャープな絵ではなく、どこか懐かしさを覚えるような、柔らかくてシンプルで、和めるような絵柄。少女マンガではバリバリきらきらが業界標準のトーンワークもあくまで控えめ。
舞台設定も意外性はなく、学園、またはその周辺。掲載誌もはっきり言っては失礼だけど、マイナー少女誌の「ステンシル」。
さっと目を通して、ちょっと和んで、ページを閉じてしまいそうになる、あっさりとしたストーリー。
なのに。
なのに。
なぜでしょう、本を閉じてもひたすらに心に残る、宝石のようなエピソードがこの本のページから存在感を持って立ち上がってくるのです。
その原因のひとつは妙にテンションの高いキャラクター。壊れてる、ってなわけじゃないけど、自分の感情をびんびんと読み手に伝えてくるキャラクターがそろっているので、イージーにシンクロできちゃうんですよね。
そして、こがわ作品の魅力である、ちょっと不思議なファンタジー的設定と、ちょっとひねりの効いたストーリー展開があって、いつの間にか、ストーリーにハマってしまっている。ヒロインを例えようもなくかわいく、とてつもなく大切に感じられてしまっている。そんな自分を感じてしまうんですよね。
ハイティーンだけに許された、ゆらゆらと揺れて、そのゆらぎがさざ波のように光を放つ、そんなきらめきを淡い雰囲気で活写した、珠玉の作品集です。

Episode & Heroine

黒髪ショートカット爆萌えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。
とりあえず叫んでみたところで最初の紹介は「マチコの心のへそ」の真知子ちゃん。
掃除時間のハプニングで記憶を失ってしまった女の子なのです。
物語は彼女と、彼女が好意を持っている好青年・咲坂くんの物語。記憶を失った日、真知子ちゃんはなぜ、咲坂くんをコテンパンにフッたのか?
彼女が自分の過去、自分の本心を探すエピソードの中で、真知子ちゃんの本気!強気!一本気!なキャラクターがきらきらと輝いて見えます。
密度の高いエピソードですが、特に後半は印象的。2月の真知子ちゃんと6月の真知子ちゃんがシンクロするシーンが上手く、そこから「陽転」する感じは、読者をほっと和ませてくれますね。
もひとつ。表題作「セツナカナイカナ」は人の心を読むことができるヒロイン相田さんと、愛想の悪い黒川くん、そして大雪の物語。
設定はファンタジック。情景もなかば現実離れしてるところがあったりするんですが、それでいて、描かれている事はだれにでも通じる事。「ふれあい」。
効果的なモノローグと、ふわっと印象的なひとつひとつのシーン。ムードをじわっと盛り上げて、最後まで温かさが染み渡る珠玉のエピソードの中で、人の心を読めるが故に人の心の中に踏み出せなかった相田さんが、黒川くんとの出会いでかわっていく、甘くはない、けど、優しい雰囲気が心に残ります。

Guide

基本的にムードで読ませる作品。コメディ要素、キャラクター要素が薄い上に、短編集ということもありどっぷりハマるというよりも、のんびりとストーリーを追いたいタイプの作品です。
少女向け「ステンシル」レーベルから出ていますが、絵柄に抵抗がなければ、男性読者でも十分に楽しめると思います。

2003.6