転生したら乙女ゲーの世界? いえ、魔術を極めるのに忙しいのでそういうのは結構です。

(坂巻あきむ・櫻井三丸・ミュシャ/KADOKAWAフロースコミック・1〜3巻)

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Story

銀髪の貴族令嬢・アリスは邪な陰謀の標的となり、心を病んで言葉を失っていた。
しかしアリスの幼い命火が燃え尽きんとしたとき、ファンタジーオタクの社畜アラサー女の魂が転生して彼女に宿る。
「カラダは子供、頭脳はオトナ」になったアリスはローヴァイン離宮魔術学園に進学。魔術を修めながら、さまざまな思惑が渦巻く魔法貴族の社会に乗り出していく。

Impression

長ぇよ、タイトル。
略称は「転乙」らしいです、この作品。作画担当の坂巻あきむさんのぷにぷにっした絵柄が好きで(当サイトでも3作品を紹介中!)指名買いをしてきたわけですが、読んでみたらなかなかしっかり面白いんですよね〜、これ。
「ファンタジーとか守備範囲外なんだよねー。転生モノなんて最近ありきたりだし。ま、アリスちゃんがかわいいから許しますかー」ぐらいの感じで読み始めたんですが、いやいやなんのなんの。
銀髪幼女にファンタジーオタクのアラサー女子が転生して、「カラダは子供、頭脳はオトナ」な活躍をするのはまだまだ序の口。
貴族社会らしい策謀がのっけから登場してスリリングに開幕し、これでもかと築き上げられた貴族社会&ファンタジー設定が作品世界にぐいぐいと引き込ませ、さらには魅力的な敵役も登場して、いやぁ、読ませてくれます。原作の魅力を一滴も逃すまいとするかのごとく、1ページたりとも息をつかせることなくアップテンポなリズムでストーリーを進行させ、みどころをたっぷりと詰め込んでくる坂巻さんの膂力、手腕が鮮やかなんですよね〜。
それでいて堅苦しい魔法貴族ファンタジーに終わることなく、アリスや周囲の子どもたちはやっぱりぷにぷにかわいいし、周囲の大人たちはそれぞれいい味出しているし、読後感はやっぱりほっこり和やかムード。
見てかわいらしく読んで楽しい、魅力がみっちり詰まったファンタジーです。

Alice

本編のヒロインが腰まで伸びた白銀の髪も麗しい、オーキュラス侯爵家のひとり娘、アリス・リヴェカ・オーキュラス嬢。御年7歳。
まさに高貴で愛くるしい美幼女で、もうアリスたんの一挙手一投足を見るだけで毎日が目の正月になるほど麗しいんですが。が。
中身はオカルトオタクのアラサーOLだったという若干残念なキャラクターの持ち主です。
そんな二面性を持ったキャラクターだけに、年齢以上に大人びた幼女(や、「ものわかりのいいロリ」って大好物なのでこれだけで私満足なんですが)という表の顔に加え、魔法世界のさまざまな事象にテンション上がっちゃうファンタジーオタクとしての顔だったり、アリスを取り巻く人たちに心の中で冷静にツッコミ入れる役割だったり、あるいはこの世界を傍観するナヴィゲーターとしての顔だったり、いろんな顔が併存していて、そこがなんとも独特のキャラになっているんですよね〜。
しかしアリスたんに惹きつけられてしまうのはなにより、人々を守るべき立場の貴族として、誇りと正義に基づいた行動をしているから。
見た目はイロモノ、だけどしっかり正統派のヒロインしているのが、アリスたんの最大の魅力ですね!

Charactor

オトナたちがいい味出しているのがこの作品の持ち味♪
だいたいヒロインのアリスたんからして中身はアラサーなんですから、ロリっ娘×オトナの相性がいいのかもしれませんね。
というわけでまずはアリスパパのジークムント・シュテファン・オーキュラス侯爵(だから長ぇって)。憂い顔にすら気品が漂う若き侯爵、「氷の貴公子」の異名を持ちクールでノーブルでイケメンで、魔法の遣い手としても一流なんですが。
親バカです。アリスたんのこととなると完全にキャラが崩壊します。アリスを撫でくりまわすことに生きがい感じてます。こんなことでオーキュラス家は大丈夫なのか、若干以上の不安を感じないでもありません。
アリスたんのおばにあたるのが、ハイメ侯爵家のスーライトお姉さま。アリスたんの家庭教師をしているこの人がまた、いい味出しているんですよねぇ。短く切りそろえた黒髪に眼鏡が似合うクールビューティ。アリスパパのような似非クールじゃなくて、ほんとにクールです。家庭教師としてはスパルタ気味なところもありますが、姪であるアリスたんへの慈愛に満ち、そして強い意志を備えた「鉄の女」。こういう女性には憧れちゃいますよねぇ。
2巻から登場、ローヴァイン離宮魔術学園でアリスたんたちを教えるのがレイ先生。ウェーブした黒髪に切れ長の眼、中性的な顔立ちが神秘感を漂わせる、スーライトお姉さまとは別ベクトルのクールビューティ。ですが、これは表の顔。アリスたんだけが知っている裏の顔があって、そのギャップがなんとも愉しいですね。マジメな性格の分、この作品ではすっかり振り回され役になっているあたりもいい個性です。
オトナばっかりじゃつまらん、ロリっ娘も紹介しろという方にはこのキャラを。
ローヴァイン離宮魔術学園の最高権力者、オルテンシア学園長です。薬の研究で薬品を浴び続けていたら幼女の姿になったという学園長。中身は老婆です。いわゆるひとつのロリババアってやつです。持病はぎっくり腰です。とにかく突拍子もない言動で学園中を振り回す、壊れた信号機。なんですが、時に年相応に分別ある言葉を口にしたり、教育者らしく人を見る目があってアリスたんたちを教え導いたり。まさに一筋縄ではいかない、食えない婆さんです。
ちゃんとした幼女なら側近のマチルダ・アウエンミュラーちゃんとユレーナ・リリエンタールちゃん。花のように麗しいマチルダと、月のように華やかなユレーナ、そして銀髪の美幼女・アリスたんが三人できゃいきゃいしている姿はまさにかわいいの金城湯池、幼女の桃源郷。幼い女の子たちが楽しそうに群れている光景はほんと癒しですね〜。
他にも魅力的なキャラが目白押し。黒髪で物分かりのいいクールロリ・ローリエとか、いいキャラが突っ走っているヨハン少年とか、2巻になるとかわいい獣人たちも出てきますし、メイドのコニーも癒しキャラでいいんですよねぇ……。
いつもより多い尺を割いても語り切れないので、あとは実際に読んで確かめてください♪

Guide

「転生」「乙女ゲーの世界」「魔術」「貴族」と、いろんな要素をひとつところにぎゅっと詰め込んだ作品で、設定も世界観もコテコテ。キャラも尺のわりに多く出てくるのに加えてストーリーが進むテンポも速いので、ちょっとついてくのが大変かもしれません。
ただし、アリス(中身はアラサーのオタク)が中心からぶれることなく、アリス(中身はアラサーのオタク)の魔法世界見聞録的な流れは一貫しているので、脇のディテールに気を取られることなくアリスたん(しつこいようだけど中身はアラサーのオタク)にシンクロする形で読み進んでいくと、案外さくさく楽しめます。

2021.7