(坂巻あきむ・櫻井三丸・ミュシャ/KADOKAWAフロースコミック・1〜3巻)
銀髪の貴族令嬢・アリスは邪な陰謀の標的となり、心を病んで言葉を失っていた。
しかしアリスの幼い命火が燃え尽きんとしたとき、ファンタジーオタクの社畜アラサー女の魂が転生して彼女に宿る。
「カラダは子供、頭脳はオトナ」になったアリスはローヴァイン離宮魔術学園に進学。魔術を修めながら、さまざまな思惑が渦巻く魔法貴族の社会に乗り出していく。
1巻発売当初は近辺の書店では見つからずに取り寄せたんですが、3巻発売時には行きつけの書店に普通に入荷していましたし、郊外の大型店では平積みになっていて、じわじわと人気が出ているのかな、と思いました。
長い長いタイトルですが、「転生したら」は今ありがちな、というか人気のフォーマット。「乙女ゲーの世界」が転生先で、ヒロインがその「世界観」「筋書き」を知っているというのはひとつのスパイスになっています。
「魔術を極めるのに忙しいので」ということでメインは魔術と魔術学園のディテールが豊富に描かれている点。「乙女ゲーの世界」ということでイケメンが入れ代わり立ち代わりヒロインの周りに現れる作品かと思ったらさにあらず、「そういうのは結構です」とばかりに魔術と魔法学園、そしてその周囲にうずまく様々な思惑が作品を牽引し、男女問わず楽しめるファンタジーにまとめられています。
エピソードがたっぷりな原作をテンポよく画面に収め、時にかわいらしく、あるいはアップテンポに楽しく、さらにはカタルシス一杯に、休むことなく展開して見せる坂巻さんの手際も見事。
アリスや獣人たちの愛らしさでシリアスを中和して見せるあたりは絵師の面目躍如で、読んでいて実に楽しく心地いいファンタジーです。
2021.7