(芝田わん・佐伯さん・はねこと・優木すず/スクウェア・エニックスガンガンコミックスUP!・1巻〜)
藤宮周がひとり暮らしをするマンションの隣部屋には天使が住んでいる。
高校のクラスメイトで、容姿端麗、成績優秀、品行方正な姿から「天使様」と呼ばれている椎名真昼が。
真昼のことを近くに住んでいても遠い存在と感じていた周だが、雨の日、傘も差さずに迷子のような表情で公園に佇む真昼に傘を差しだしたことがきっかけで、ふたりの距離は縮まりだす。
実はこの作品、原作のライトノベルがローンチした際にも気になっていたんですが、結局買うのを見送っちゃってた作品なんですよね〜。それがコミカライズされて店頭に並んでしまったものですから。カヴァーで真昼ちゃんが傘持ってじっとこっちを見つめてくるもんですから。ついつい。レジに持ってっちゃいました。
うん。買って正解でしたね。
一読した時はオーソドックスでフツーのラブコメだなぁ、という感想しかなかったんですが、ドライに見えて、セリフじゃなく小さな表情の動きで気持ちを表してくる真昼ちゃんに惹かれて2周め。真昼ちゃんの天使様っぷりと、主人公・周の駄目人間っぷりが繰り返されるストーリーが楽しくて3周め。ついつい繰り返して読んでしまいました。
冷静になればひとり暮らし男子の夢が! ドリームが! ファンタジーが! 詰まった物語っていうことになっちゃうんでしょうが、こんな夢見たっていいじゃないと開き直りたいくらいに理想的で夢みたいなご近所ラブコメ。学校ではクールな完璧超人、だけど部屋に帰れば家庭的で世話焼きで、だけどちょっと毒舌な真昼ちゃんのおかん気質も気持ちよく、この夢のような空間にどっぷり浸かって抜け出せなくなってしまいます。
主人公の周だけじゃなく、読者も骨抜きにされて駄目人間になっちゃいそうな作品です。
本編のヒロインが椎名真昼ちゃん。
カヴァーを見ればわかる通り、腰まで伸びたミルクティー色のさらっさらの髪に、琥珀色の瞳、そして儚げな表情が印象的な女のコ。
透けるような肌に整った鼻梁、長いまつげと大きな瞳、欠点らしい欠点はなく成績優秀で謙虚な性格、しかも家事までパーフェクト。まさに理想が制服を着て歩いているような少女でついた綽名が「天使様」というのも納得のS級美少女なのです。
しかしそれは外面を作っている学校での話。主人公・周と一緒の時は「天使様」としてのパーフェクトさは残しつつも、歯に衣着せぬ率直な物言いをする一面が見えたり、乙女な一面をのぞかせたり、家庭的……というかおかん気質をのぞかせたり。そういうギャップが真昼ちゃんを「天使様」という二つ名以上に魅力的に見せてくれるんですね〜。
ドライで表情をあまり変えないタイプなのに、実は表情豊かなところもチャームポイント。
こんな女のコが隣に住んでいて甲斐甲斐しく料理を作ってくれたり、部屋の掃除をしてくれたり看病してくれたりするんですから、もうこれはひとり暮らし男子の理想を煮詰めすぎてそろそろ焦げ付きそうなくらいの理想形。「ああッ、俺もこんな女のコが隣に住んでいて欲しかったッ!」と、血涙を流しながら歩坂町の夜空に遠吠えしたくなってしまいます。
どこか儚げで、どこか秘密めいて見えるのもまた彼女の魅力。
天界から訪れたような、生活力満点な天使様に、視線が釘付けになってしまいます。
本編の主人公が真昼ちゃんの隣部屋に住むひとり暮らしの藤宮周。
洗濯はかろうじて出来るものの(←偉いッ! 私は出来ません)、掃除は壊滅的、炊事は不可能、健康管理もギリギリで生活能力まるでなし。ということはひとり暮らしする資格なしの駄目人間なのです。……ひとり暮らし経験者としてはすっごく親近感感じますけどね!
とはいえ真性の駄目人間が天使様である真昼ちゃんの施しを受けるなどあってはならぬこと、もしもそんなことがあれば「たとえ神が許してもこんな不条理俺が許さぬわーーーーーーーーーーーーッ」と夜空に遠吠えしつつコミックスをまっぷたつに割いてしまうところですが、周の場合は生活能力はなくても真人間、困っている人がいれば手を差し伸ばし、真昼ちゃんに優しくされても勘違いしないで適切な距離を測り、けして人には甘えず、感謝すべき時にはきちんと感謝を口にする、心清き好青年なのです。生活能力はないけれど。
こんな好青年の周がどうやって駄目人間になっていくのがこれからのお楽しみってことですね。
ひとことで言ってしまえば王道の、ラブコメらしいラブコメ。コメディ色は薄く、笑いたいというよりは、じれったさとか尊みを満喫したい方向きの作品で、カヴァーの雰囲気そのままの作品だと思います。
ラノベのヒット作が原作らしくストーリー展開はこなれていますし、マンガも達者。ついでにひとり暮らしで注意すべきポイントも分かる実用的なところも備えています。
2022.9