しあわせ鳥見んぐ

(わらびもちきなこ/芳文社まんがタイムKRコミックス・1巻〜)

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Story

みちのく芸術大学に通う2年生、宮内すずは絵に行き詰まりを感じ悩んでいた。課題の講評で「君の作品には色がない」と酷評を受けてしまったのだ。
その迷いを抱えたまま訪れた公園で、すずはスズメを観察する少女、時庭翼と知り合う。翼の導きでさまざまな野鳥と出会い、そして「空飛ぶ宝石」カワセミにインスピレーションを受けたすずはひと皮むけた、色鮮やかな作品を仕上げると同時に、魅力的な鳥たちの世界へと足を踏み入れるのだった。

Impression

突然ですが私、中部山岳地帯某市(松本だけど)郊外に勤めておりまして。
勤め先が田んぼと西瓜畑とそば畑の真ん中の長閑なところにあるものですから、庭木で子育てしているモズを温かく見守ったり、玄関先に巣を作った燕の成長を観察したり、雨上がりの駐車場でハクセキレイと追っかけっこをしたり、出勤するとキジバトの歌声で出迎えられたり、ドバトのフン害に憤慨したり、夕刻押し寄せるムクドリに閉口したり、通勤途中で道路を横断しだしたカルガモ親子に道を阻まれたりと、鳥類とのふれあいに溢れたサラリーマンライフを送っていたりするんですが(仕事しろよ)。
そんな私にぴったりのコミックスがリリースされました。その名も「しあわせ鳥見んぐ」。
バードウォッチングをテーマにした作品ということで、最近ジャンルを確立しつつあるアウトドアコミックのジャンルに入る作品ですが、紹介されているのは深山幽谷や遥かな離島にバズーカみたいなレンズ担いでかないと見られないような珍鳥ではなくて、あくまで地方都市の街中で見られる身近な野鳥たちがメイン。おうちから一歩出たところから楽しめるアウトドアコミックなんですよね〜・
初めて見た鳥を細かいところを手掛かりにしながら、図鑑などを参考にしつつ名前を探り当て識別する作業はまさに作中ですずちゃんが言っている通り、「パズルのピースがピタッとはまった気分」。その楽しさ、すっきり感がダイレクトに伝わってきて、「うん、それ、分っかる〜!」ってなっちゃうんですよね〜。だから「鳥を見るって楽しい!」ってのがリアルに感じられる、“いつもの公園も普段の散歩道もずっとずっと楽しくなる”作品になっているのです。
もちろん「きらら」レーベルですから、出てくるキャラはこんな個性的でかわいい女子ばかり。それにとどまらず、紹介される鳥たちはどれもリアルでありながらどこかキュートに描かれていてそれだけでも癒されますし、空の広がりを感じられる情景描写はパノラミックでダイナミック。
読んで楽しく、見て可愛く、そして日常にちょっとだけ空の広がりを与えてくれる作品です。

Suzu Miyauchi

スズメのようにちょっと地味だけど、ふんわりかわいいキャラクター、それが本編のヒロイン、宮内すずちゃんです。
ミルクティー色のふわっふわの髪がトレードマークの天真爛漫なキャラクター。落ち穂を食べてるマガンを見て、「ライス食べ放題じゃん」なんて言ったり、ハクセキレイ・キセキレイ・セグロセキレイで「セキレイ三種盛り」なんて言っちゃったりする胃袋直結な言語センスがまたいいんですよね〜。お酒大好き、いつもにこにこしている穏やかなキャラクターに見えて、絵のことになるといつも真剣で、いつも絵のことで悩んでいる、一途な芸大生としての一面も持っているのです。
素直な女のコだから、未知の世界だった「鳥見」のこともどんどん吸収して、身近にいたのにぜんぜん知らなかった野鳥のことをひとつひとつ「発見」していく、そのプロセスが楽しくて、読者に「鳥見って面白そう」「身近にこんな鳥がいたなんて」と思わせるいいナヴィゲーターになっているのです。

Charactor

本作品のもうひとりのヒロインと言えるのが、カワセミのように美しい青色のポニーテールがトレードマークの時庭翼ちゃん。バードウオッチングが趣味で、鳥のこととなると見境がなくなり熱弁が止まらなくなっちゃう熱血系鳥見女子なのです。素顔は目立つのが苦手なクールの女のコではあるんですが、鳥のこととなると抜群の行動力を発揮。野鳥観察の魅力を広めるべくシジュウカラの着ぐるみをかぶって「トリさんぽch」なんて動画配信をしてみたり、「気分転換に」と奥羽山脈を越えて伊豆沼までクルマを走らせたりとアクティブなところを見せてくれるのです。うん、趣味に熱中する女のコってきらきらしてて魅力ですよね。
翼ちゃんのお友達、山形弁がトレードマークの方言女子が今泉ひなちゃんです。水辺でのんびりぷかぷかしているカモ類のような朴訥癒し系のふわっふわ女子かと思いきや、県内有数の果樹農園(さすが山形)のお嬢様だったりして、そのへんのギャップが楽しいですね〜。バードウオッチングに熱中するほかのキャラに対し、ちょっと離れた距離から鳥見女子たちを観察し、そして時には一緒に行動することもある、そんな距離感もひなちゃんがなじみやすく感じられるポイントですかね。
オオタカと一緒に登場する猛禽系女子が荒砥岬ちゃん。岬ちゃんというよりは岬さんと呼びたいクール女子ですね。おじいさんが著名な写真家というサラブレッドで、すずちゃんと同じ芸大の写真科2年生。クールな中にも鳥の自然な生態を取るためには努力を惜しまないプロ根性を宿した、青い炎のような女のコなのです。
すずちゃんたちが行きつけの焼き鳥屋(!)で働いているドライというか無愛想な(!)ウェイトレスさんというもうひとつの顔もあったりします。

Guide

基本的には「きらら」系萌え四コマのフォーマットに収まる作品で、ディテールを楽しみつつもかわいいキャラクター(微百合風味)をウオッチングして楽しみたい作品ですね。
ディテールはキャラクターの動きを阻害しない程度で、身近な野鳥をテーマにしたものなので、鳥見をガチで楽しんでいる人には物足りなく映るかも。それでも野鳥観察誌「BIRDER」に取り上げられたりもしていましたから、考証はしっかりしています。

2021.11