紡ぐ乙女と大正の月

(ちうね/芳文社まんがタイムKRコミックス・1〜3巻)

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Story

高校デビューに失敗した藤川紡は、地震で倒れた本棚の下敷きに……なったと思った瞬間、大正時代へとタイムスリップしてしまう。
不審者、露出女と思われ官憲に追われた紡だが、その窮地を袴姿の落ち着いた少女、末延唯月に救われる。
かくして紡は末延公爵家の唯月付きの使用人として、100年昔の世界に生きることになるが、令和の世界とは何から何までが違っていて戸惑うことばかり。さらに唯月をめぐる貴族社会の人間関係にも巻き込まれて……。

Impression

大正×タイムスリップ×百合四コマ。
いや〜、いいですねぇ。
袴姿のかわいい女学生が出てくるというだけでもうれしいこのマンガ、「どーせ“きらら”の萌え四コマなんだし、ムードだけのなんちゃって大正なんでしょ?」と斜に構えつつ甘く見ながら読んでいたんですが、なんのなんの。大正10年に東京で起きた出来事や、当時の女学生の間での流行、果ては当時は未成年の飲酒が禁止されていなかった(!)なんてネタまでもがしっかり取り入れられていて、読むだけで大正10年に詳しくなっちゃえるのです。……詳しくなってどーするのかはわかりませんが。
しかもこのマンガ、単に大正に詳しくなるマンガというだけじゃなく、“きらら”らしい軽快さをしっかりと兼備。ノーブルな唯月お嬢様を中心に、身体を張ったボケ担当(ヒロインなのにな)の紡ちゃん、ツンデレ担当空回り担当の旭ちゃん、食い気担当の初野ちゃんが絶え間なく笑いを取って、かけあいの楽しい大正ドタバタコメディとしてしっかり笑えちゃうのです。
盛り上がったところからひとコマで冷めたり、シリアスな場面から一気にお気楽な場面になったりと緩急自在で、盛り上げるところはしっかり盛り上げ、ヒキを作るところ、オチをつけるところも鮮やか。毎度毎度「オチのつけ方がキレイだよなぁ」と膝を打ちつつも、コミカルなシーンの連続に腹を抱えて笑ってしまいます。
さらに百合っぷりも完璧。強い自制心を持った完璧なお嬢様である唯月ちゃんが、突然現れた奔放な存在・紡ちゃんに惹かれていく様はドラマチックで、絶やさぬ笑顔の奥に秘めた純情にドキドキしてしまいます。
1ページ1ページ、1コマ1コマの密度が高いハイパフォーマンスな萌え四コマ。大正×タイムスリップ×百合四コマが起こす無限の化学反応から、目が離せません。

Tsumugu Fujikawa

現代から大正10年(1921年)にタイムスリップしてきたセーラー服の高校1年生、それが本編のヒロイン・藤川紡ちゃんです。
根は明るく真面目な正統派ヒロインのはずなんですが。
不幸にしてタイムスリップに巻き込まれたかわいそうな女のコのはずなんですが。
実際問題としましては、警察に追われたり痴女呼ばわりされたり、しまいにゃ二日酔いで正月早々××しちゃったりと、いかんせんやることなすことがことごとく空回りしたり、やたらと残念なイヴントが降り注いできたりで、結果としてヒロインのはずが身体を張ったボケ担当、コメディリリーフの役回りに立っちゃってるという、なんとも面白いヒロインなのです。
多少の厄介ごとは生来のお気楽な性格で乗り切っちゃって、100年昔の世界にもなんだかんだであっさり順応しちゃうところが紡ちゃんのチャームポイント。現代ではフツーの(ぼっちだけど)女のコだけど、大正時代に来れば不思議な女のコとみられちゃうわけで、そのへんのギャップが大正時代へのナヴィゲーターとして機能してるんですね〜。
かわいいというよりは面白いが先に立っちゃう残念系ヒロインですが、一緒に住む妹分・唯月ちゃんを思う気持ちは本物。
そんな真っ直ぐさがなんとも眩しい、やっぱり正統派のヒロインなのです。

Charactor

このコ達ってウチのひいばあちゃんと同じくらいの生まれなんだよなぁ、なんてことを思いつつ袴姿も麗しい大正女学生をご紹介。
本編のもうひとりのヒロインと言えるのが、タイムスリップした紡ちゃんを拾い、家に迎え入れた末延唯月ちゃんです。黒髪に泣きぼくろ、矢絣の袴姿が良く似合う末延公爵家のご令嬢。その育ちに相応しく、容姿端麗品行方正、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花といった趣の美少女で、総ての人の目を捉えて離しません。物腰もノーブルな完璧なお嬢様なんですが、紡ちゃんの前でだけは14歳の女のコらしい無邪気なところを見せたりして、そのギャップがまたかわいいんですよね〜。そして、年齢よりも大人びた令嬢の顔の裏に隠した孤独が時折滲み出てきて、そこにグッと来てしまうのです。誰よりも幸せになってほしいと願いたくなる、そんな乙女なのです。
その唯月ちゃんに猛アタックをかけているのが、紅藍色の長い髪も印象的な伯爵令嬢・万里小路旭ちゃん。唯月ちゃんへの愛が重いうえに、そのベクトルがなんだかあさっての方に向きかけているなんだか残念な女のコなんですが、それでいて唯月ちゃんを巡るライヴァルの紡ちゃんのことも気にかけて守ってくれる、なんとも漢気のあるお嬢様なのです。愛が重いゆえにいろいろ空回っちゃっているところはご愛敬で、紡ちゃんと並ぶコメディメーカー。なんとも愛すべきツンデレお嬢様なのです。
きれいに切り揃えられた黒髪が印象的なのは、蜂須賀侯爵家のご令嬢、蜂須賀初野ちゃん。苗字で気づかれた方もいるかと思いますが、江戸時代は大名だったという家柄で、初野ちゃん自身も文武両道のお嬢様。その一方で読書が大好きな文学少女、紡ちゃんのことを天界からやって来た天女と勘違いしているなんてこともあって、夢見る少女という一面を持っているのです。いや、一面というか、登場当初はそーいうキャラだったんです!
が。なぜかやがて食いしん坊というキャラを確立。隙あらば何か食べてるし、うっかりすると食べこぼしが口の周りについちゃってるし、黒髪の儚げな文学少女、和装の似合うご令嬢というイメージはがらがらと崩れちゃって、ただの食い気姫、オチ要員になっちゃっているんですよね〜。……どうしてこうなった。
だけどそんなところを含めて初野ちゃんの魅力だと思うのです。

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2022.11