紡ぐ乙女と大正の月

(ちうね/芳文社まんがタイムKRコミックス・1〜3巻)

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Story

高校デビューに失敗した藤川紡は、地震で倒れた本棚の下敷きに……なったと思った瞬間、大正時代へとタイムスリップしてしまう。
不審者、露出女と思われ官憲に追われた紡だが、その窮地を袴姿の落ち着いた少女、末延唯月に救われる。
かくして紡は末延公爵家の唯月付きの使用人として、100年昔の世界に生きることになるが、令和の世界とは何から何までが違っていて戸惑うことばかり。さらに唯月をめぐる貴族社会の人間関係にも巻き込まれて……。

Impression

大正時代にタイムスリップした女子高生を主人公にした百合四コマ作品です。
掲載誌のカラーを考えればそれなりの時代考証でも良さそうなものですが、作中の日付が明示され、実際に大正時代にあった出来事が展開し、さらにモデルとなった建物や参考文献も紹介されるなど、歴史好きだという作者が考証に力を入れていることが示されており、さらにこの物語が大正時代のどの日付をターゲットに進んでいるかも仄めかされていて、一本芯の通った生真面目さと、緊張感が感じられる作品になっています。
とはいえけして歴史事実にこだわって堅苦しく進んでいくのではなく、時には体操服のブルマを大正時代のそれではなく、「せっかくなので皆さんが好きなほうのブルマで描きたいと思います」などという柔軟性を見せたりして、読者を気持ちよく大正時代にトリップさせてくれるところもこの作品の美点。大正時代のお嬢様方をメインにしつつも堅苦しい描写を抑え、セリフ回しはあくまで軽妙。しかし、サブヒロインにノーブルな公爵令嬢・唯月を据えて、上流階級ものとしての羽目を外し過ぎないよう絶妙の味付けを施しています。
掲載誌でも楽しんでいる作品ですが、盛り上げ方、ヒキの作り方といったストーリーメイクの達者さ、シリアスな場面とコメディパートを違和感なく行き来して見せる巧みさはコミックスでまとめて読んだほうが引き立ちます。
完成度の高い四コマで、作者の思惑にまんまとはまる快楽を味わえる好作品です。

2022.11