(稲井カオル/白泉社花とゆめコミックス・全3巻)
はなマート緑丘モールのドラッグストア「ドラッグわかば」で苦情を一身に集める金髪強面高校生店員・片野と、その片野をクールにそつなくあしらう黒髪ショートカット女子校生店員・宇多川。
ふたりの距離はそれなりに接近しつつも、ドラマティックで胸を焦がすような恋に発展することもなく、だけで気軽で楽しく無駄口をたたくだけの、平凡な日常がただ綴られていく。
青春に憧れている方には残念な、だけど青春を通り過ぎた方にはちょっと甘酸っぱくもくすりと笑えるローテンションラブコメ。
やぁ〜、久々に「花とゆめ」系らしいヘンテコなラブコメを紹介出来るぞ!
無表情気味かつ常識からズレ気味の黒髪女子高生と、お客様に苦情を受けまくる金髪ヤンキーが、ドラッグストアを舞台に繰り広げるラブコメ。とだけ書くとなんの特徴もないように感じられるんですが、クールにもほどがある女子高生・宇多川さんと、宇多川さんに片思いしつつ素直になれないヤンキー・片野さんのとぼけたかけあいがテンポのいい漫才のように楽しく、読んでいくうちにじわじわきて表情筋と腹筋がやられちゃうんですよね〜。
すっとぼけた小ネタを次から次へと回転良く繰り出してきて笑わせたかと思えば、ロマンスな流れからチカラワザでお笑いに持ち込んできたり、日常のなにげない一瞬を切れ味よくネタに変えてきたりと笑いへの持ち込み方が自由自在。
あまりにも次から次へと不意打ちを食らうようにして笑ってしまうので、「小ネタ耐性つけようよ、俺」と思うんですが、その警戒心を越えた不意打ちで笑かしてくれるんですから、手に負えません。
漫才の王道をひた走り、コントの中心を駆け抜けるラブコメディ。
8割がたコメディをやりつつも、残り2割に「あ、これ分かるわ〜」と30年前に男子高校生だった私が膝を叩いて共感しちゃうようなラブ要素が挟み込まれていて、そのへんがまたにくいんですよね〜。
まぁ、女子より男子に共感されそうなラブコメって、少女マンガとしてどうなんだ、って気はしないでもないですが。
本編のヒロインが準黒髪ショートカットのクールな女子高生・宇多川あずさちゃん。
うん、まぁ、ヒロインとは書いてみましたけれど、どっちかっつーと漫才コンビの片割れみたいな感じですね。
片野くんのアツい言動を、表情薄いままにパッカーンと右中間方向にはじき返すのが役どころ。オブラートという言葉を全く知らないダイレクトさマシマシの返しがいちいち切れ味抜群で楽しいんですよね〜。こんなコと一緒にデートしたら楽しいだろうな〜、というかこんなコと一緒にデートしたら疲れるだろうな〜、というか。
だけど、クールでシニカルなように見えてけっこう世話焼きで家族思いな一面を持っていて、そのへんがいいギャップというか、魅力になっているんですね〜。
うたかたコンビのもう片っ方が片野優太くん。「優」という字といいギャップを感じる、典型的男子高校生で、典型的ヤンキーで、典型的ツンデレで、ついでに典型的空回り。ドラッグストアの店員でありながら接客態度が雑過ぎてクレームまみれ、というあたり実に典型的ヤンキーです。
宇多川さんのクールなボケにアツく全力でツッコミを入れるのが役どころ。そして宇多川さんにほのかな思いを寄せつつも空回ったり、軽くあしらわれたりするのが役回りの典型的ラブコメ主人公なのです。
女のコから見ればそのペーソス溢れる言動が面白く、男のコから見れば面白くも同情を禁じ得ない、そんな親しみを持てるヤンキーです。
実にこのレーベルらしい、すっとぼけた味わいのラブコメディで、男女問わず受けそうな作品ですね。漫才好きな人とかに合いそう。
一方、普通のラブコメを求める人にはキャラに個性がなく、テンション低く感じられそうですね。
じわじわっと来るタイプの作品だと思います。
2019.2