(カミムラ誠/双葉社アクションコミックス・1巻〜)
デパート業界雑誌の編集長をしている青年・椎名誠の許に、ひとりの新入社員がやってくる。
その名は目黒考二。彼は無類の本好きで、一度は就職したものの「会社勤めをしていると本が読めないので」という理由で3日で退職してしまった経歴のある「破綻した男」だった。
椎名の許で働き始めた目黒だったが、やはり会社勤めは長く続かず、編集部を去ることになる。しかし読書、特にSFの話で目黒と意気投合し、彼のことが頭の片隅から離れなかった椎名の許に、再び目黒青年が現れる。
書評誌「本の雑誌」の揺籃期を描いた実録コミック。
椎名誠、沢野ひとし、群ようこ、中場利一、馳星周といった才能を輩出し、コアなファンも多い書評誌「本の雑誌」。その黎明期を描いた実録マンガです。
活字中毒が過ぎて社会からドロップアウトしかけていた青年・目黒考二と、気鋭の業界誌編集長・椎名誠の出会いから誕生したこの雑誌、最初は目黒の読書リポートから始まり、やがて仲間を集めて同人誌的な集積を見せ、やがて都内の書店に進出するというプロセスは昭和四十年代当時としても異例で、それだけに高度成長期に漂っていた右肩上がりの万能感と、若い個性がぶつかりあい、化学反応を起こすことで産まれる熱が感じられ、読者をこの実話にのめり込ませる原動力となっています。
実録マンガということでいささかテキスト過多にも感じられますが、それも「黒と誠」のふたりが放射する熱が豊富で、エピソードに事欠かないため。
地図のない道を若さで切り開いていく青年たちの行動力が眩しく、心地よい気分になれる作品です。
2022.11