(やぶうち優/小学館ちゅちゅコミックス・全3巻)
澄川晴流は小学校時代の同級生で、今は違う中学校に通う福住凪とつきあっているが、引っ込み思案同士のふたりはうまく想いを通わせられず、ぎくしゃくしてばかり。
そんな折、晴流は同級生の平岸颯に強引に誘われ、陸上部のマネージャーをやることに。
北の街を舞台に、多感な季節、揺れる想いを鮮やかに描いたリリカルストーリー。
ベテランの域に達しつつあるやぶうち優さんの王道恋愛作品です。
やぶうち作品といえば、「水色時代」「少女少年」「ないしょのつぼみ」といった、少年少女の成長をショートエピソードで描いた作品群や、「アニコン」のようなキャッチーなコメディが目立ち、意外にも直球の恋愛長編は珍しいんですが、既に短編では多くの佳作をリリースしており、満を持して王道長編を送り出して来たという印象があります。
ストーリーはシンプルに、凪と颯というふたりの少年の間で揺れ動くヒロイン・晴流を描いたものですが、この作者らしく、小さなエピソードを連ねてストーリーが作られており、読み飽きない構成になっています。
加えて札幌という実在の街を舞台にし、その冬の光景を作品の背景にしたことで、作品にしっかりした手応えが感じられるのも美点。
もちろん晴流の心理はベテランらしく丁寧に、そしてリリカルに描かれており、読みやすさと深い印象度を兼ね備えた作品になっています。
2008.1