(藤野もやむ/エニックスガンガンWINGコミックス・全5巻)
クレームドゥ=カカオは、心を喪った姉を助けてもらうべく、山の彼方に住む「なんでも屋」、ベルスタシオ=イヴルを頼ろうとするが、あっさりと門前払いを食う。
しかしその帰り道、カカオは邪眼の少年−ナイトメアの幻覚に襲われ、イヴルに助けられる。なんの気まぐれか、最前の言葉と裏腹に「守ってやろうか?」と口にするイヴル。そこから、カカオとイヴルの奇妙な旅と共同生活が始まるのだった。
なかなか読みごたえのあるファンタジー作品です。最初はヒロイン・カカオにスポットライトが当てられ、キャラクター要素重視の作品かな、と思わせるのですが(確かにそれも間違いではないんですが)、次第に描写をハードに、重くしながらヒーロー・イヴルに視点を動かして行き、力のあるファンタジーワールドへいつの間にか読者を誘い込んでしまいます。読み返してみれば、ひとつのセリフで作品の方向性が転換してしまうような荒っぽいストーリー運びも見られるのですが、センスのあるエピソード作りがそれを補っていて、ぎこちなさは感じられず、むしろそこがドラマチックなストーリー運びというふうに感じられます。
重い作品ではあるのですが、カカオとアーリ、ふたりの女性キャラの作品世界を照らすような明るさと、少年誌らしくハードな描写を抑えたことで、拒否反応を起こす前にストーリーに誘われるような魅力があり、並のファンタジー作品とは一線を画した素晴らしい作品になっています。
2002.1