(ヴァージニア二等兵・蝉川夏哉/角川コミックスエース・1〜18巻)
異世界の古都・アイテーリアの馬丁宿通りには、人々の噂に上る不思議な居酒屋がある。
異国風の店構えをし、異国風の店員が営み、カラアゲ、チクゼンンニ、オデン、ナポリタン、アンカケユドーフ、そしてトリアエズナマと見たこともない、そして絶品の料理を供するその店の名は「のぶ」。
今夜も「のぶ」では古都の人々の様々なドラマが繰り広げられる。
中世ヨーロッパ風の異世界に現代日本の居酒屋をねじ込みました、という感じのワンアイディア作品。
ジビエと馬鈴薯しかないような世界に和食を、居酒屋料理を、キンキンに冷えたビールを持ち込めば当然無双できるでしょう、と予測できますし、実際予測通りのエピソードが繰り広げられるんですが、読みどころはそこではありませんね。
ひたむきで朴訥な人々が暮らす懐かしきイメージの異世界に、昭和の香りをまとった居酒屋を放り込むことで、昭和の映画で見たような懐かしくそして前向きで健全な世界を「昭和」というフィルター抜きに現代に提案して見せる、そこが心地よく感じられます。
出てくる料理に奇をてらったものはなく、レシピがつまびらかになることもなく、大将がカウンターに「はいよ」と提示してくる、その飾らなさが居酒屋らしさを感じさせますし、飾らない料理の魅力を読者に再発見させてくる、そのへんも巧いですね。
ハートウォーミングなストーリーも含めて、オーソドックスだけれども丁寧に作られたものが目の前に出されてくるという印象。それだけに飽きることなく読み進め、そして読み返すことが出来ます。
2024.9