(伊藤ハチ/一迅社百合姫コミックス・1〜3巻)
「これは、遠い遠い獣耳の生えた人達が暮らす國のお話。この國では、同性同士の結婚が許されておりました。」
春日財閥の一人娘・ちるお嬢様は、女学校を出ると間もなく親の決めた許嫁、東雲千里の許へと嫁ぐ。
ほんわかお嬢様のちると薬屋「仟年堂」を営む千里は、家柄も育ちも性格も全く違うふたり。それでもふたりはお互いを知り、少しずつ距離を近づけていく。
獣耳の生えた人達が暮らす世界、同性同士の結婚ができる世界、そして明治〜大正を想起させる背景。
現実離れした提示をふたつみっつと重ねることにより、ほとんど見ず知らずの状態で結婚した初心なふたりが、次第に近づきお互いを理解していくさまがまっすぐに描かれていて、好感が持てます。
現代劇なら付きまとうであろう結婚に関わるあれこれを削ぎ落し、気恥ずかしいほどの甘さをスローなペースで展開していてひたすらに微笑ましく感じられ、余計なことを考えずに作品世界に没頭できる魅力があります。
近代を感じさせる世界観はどことなく藤村の「千曲川のスケッチ」を想起させるもの。これが朴訥な世界観とマッチしていて、そこもまた味わいどころと感じられます。
2018.4