DADDY FACE〜冬海の人魚

(伊達将範/電撃文庫)

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この作品は「PELの住処」のPELさんに紹介していただきました。

Story

三重県津市。近郊に八百比丘尼伝説が伝わる海岸の地方都市では、次々と変異が目撃されていた。
阿漕浦に流れ着いた、生きた白骨死体。絶えることない濃霧。客死した雑誌記者の遺骸から発見された謎のブーメラン。巨大な影。
その街にやって来たのは、冴えない大学生・草刈鷲士と、美少女トレジャー・ハンター、結城美沙の親娘。鷲士が波打ち際に倒れていた少女を拾って来た事から、彼らはその怪異に呑み込まれていく事になる。

Impression

大風呂敷。荒唐無稽。そんな言葉がほめ言葉になっちゃう、圧倒的な火力とスケール感が魅力のアドベンチャー作品。
ここまで三作が出ていまして、本来なら第一作の「DADDY FACE」を紹介するべきなんでしょうが、ここでは萌え度&完成度が高い最新作の「冬海の人魚」を紹介します。
とにかく満腹感の高い作品。はたちそこそこの冴えない大学生と12歳の美少女が親子だったり、そんな彼らが豊富な財力をバックに「宝探し」をしていたり、そんな彼らを待ち受けるのは異形の能力を持った暗殺者だったり、物理法則を無視してすべてを切り裂く謎のブーメランだったり、霧の奥に姿を見せる巨大な怪物だったり、波打ち際に横たわるずぶ濡れの美少女だったり、人魚にまつわる不老不死伝説だったり・・・
とにかく男のコが興味を持ちそうな要素をこれでもか、これでもか、これでもかと喉の際まで詰め込んだボリュームたっぷりの451ページ!
その中にはめくるめくアクションが、感動の悲恋物語が、伝説に対するあっと驚く解釈が用意されていて、もう読みだしたら止まらない!
かく言う私の場合、会社の研修にこの本を持ち込んで(持ち込むなよ)、休憩時間に読み始めるやいなや本の世界から抜け出せなくなり、夜の酒盛りもそこそこに夜半までかけて読破して感泣してしまったりしまして、もうこれはやめられないとまらない充実感なのです。
「どうだまいったか!」と押し寄せるようなこのボリューム感への答えはただ一つ。
「参りました!」

Fuyumi

 最初は言葉もしゃべれないほどに心も身体も傷つき果てた姿で登場。これ以降、彼女の正体と過去にまつわる謎が作品のエンジンとなるわけですが、それと同時にそん傷ついた彼女が徐々に自分を取り戻していく様が保護欲をそそっちゃったりなんかしまして、このへんがまた読者をぺージの中に引きずり込む強力な磁場になってるんですよね。
 他の女性キャラがはっちゃけ小娘の美沙だったり、ミュージアムのハイキュレーターだったりと、人外的に壊れた女性ばかりだから、なおさら冬海ちゃんの脆さ、というのが印象に残ります。
 その印象は感動的なラストまで貫かれ、まさに冬海ちゃんの魅力だけで1冊読みきっちゃう感じ。ガラス細工のようにいつまでも脆さと輝きが心に残るヒロインです。

Charactor

さて、本シリーズのヒロインは結城美沙ちゃん、主人公・鷲士の若き日のーというか幼き日の−愛の結晶なもので、大学生の鷲士とは歳の差僅か9歳なのにもかかわらず、実の親娘!だったりするのですね。
中学一年生の彼女ですが、ただの中学一年生じゃありません。情報企業「フォーチュンテラー」の創設者にして、その財力をバックに世界中の財宝や伝説、神秘に挑むトレジャーハンター「ダーティ・フェイス」。フライトジャケットに身を包み、景気よく火器を振り回す火力満点少女。無茶苦茶な設定ですなぁ。
鷲士をぐいぐい引っ張って、いつの間にかトラブルに巻き込んじゃう、傍若無人さが何とも愛らしい、そんなキャラクターです。
その母親が相模大のミス・キャンパス、麻当美貴ちゃん。つんと済ましてちょっとワガママ?と思わせるところがあるんだけど、鷲士のことになると子供みたくなっちゃって、ワガママ全開、ヤキモチ炸裂。実娘の美沙ちゃんにもあきれられちゃう、このへんがかわいいんですよねー。

Series

シリーズはここまで3冊が刊行済。「DADDY FACE」は富士山麓を舞台に、竹取物語をモチーフにした火力劇を披露します。2作目の「世界樹の舟」はドイツに飛び、北欧神話に絡むエピソードを展開。ぐいぐいとインフレーションを起こしていくスケール感、ダイナミックさが嬉しい一冊。もっとも本シリーズらしいエピソードです。

Guide

荒唐無稽な設定、火力重視なノリ、ひたすらインフレーションを起こすスケール感。
男のコ好みの設定が目白押しですが、正直なところやりすぎ感もかなり漂っていて、好みは別れるかもしれませんね。ヒロインが多いわりに萌え要素も少ないし。「娘萌え」なんて人がいたら美沙ちゃんでイケるかも知れませんが。
このストーリーを大風呂敷だと笑いながら、ノリで楽しむ、いわば味よりもボリュームとのどごしで味わう、そんなタイプの作品です。

2002.11


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