ファイナル・セーラー・クエスト 完全版

(火浦功/角川スニーカー文庫)

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Story

20世紀末、東京世田谷にダンジョンが発見された。土地有効活用のためにダンジョンは開発され、商店街やオフィスが建設された。そして地下十階には高校も。
その高校に瀬戸内から転向して来たのが、方向音痴の永井のりこ。さっそくのりこはトラップにひっかかって命を落としそうになり、さらにはモンスターの餌食となりかける。
果たしてのりこは、モンスターが蠢き、小林旭がパーティーを組み、忍者が全裸で駆けだし、カーネル・サンダー攻撃が炸裂するこのダンジョンで生き延びることが出来るのか!
火浦功のハイテンション・スラップスティック・アドベンチャー。

Impression

なんせタイトルがファイナル・セーラー・クエスト。ファイナルというあたりにもクエストというあたりにも男が胸に抱く冒険心を刺激してやまない部分があるわけですが、それ以上に男心を刺激してくれるのが、「セーラー」の四文字。カバーには角川の誇るかわいい系絵師・スギサキユキルさんが描く四人と一匹のメインキャラクター。
おまけに「完全版」。おお、ページを開けば、そこに血わき肉躍る冒険が待っているようではありませんか!
しかしページを開けばそのイメージは一転。「セーラー服と試練場」「ひと夏の経験値」「故郷は、豆腐にありて思うもの」。どことなくやるせなさが漂って来そうな、腰の抜けそうなセンスのダジャレがいきなりフルオープンで読者を迎え、ハイテンションかつすっとぼけたギャグワールドの開幕を告げてくれます。
あとは、「世田谷の地下にモンスター蠢くダンジョンがあって、その中に学校がある!」という突拍子もない設定が紡ぎ出す、突拍子もなくすっとぼけたギャグをひたすら楽しみ、馬鹿笑いするだけ。
冒険+学園生活×’70年代ギャグの生み出す、ハイテンションで不条理な世界。頭を空にして楽しむあるのみです。

Charactor

学園冒険ハイテンションスラップスティック。
当然、キャラクターも個性派というか、変人揃いです。
まずはヒロイン、永井のりこ嬢。天然です。ノーテンキです。方向音痴故に騒動に巻き込まれ、事態を全く理解していないが故に騒動を巻き起こす、このへんがいかにもヒロイン向け。懲りない明るいめげない性格もギャグ小説のヒロインにぴったりですね。
中村銀河。耽美系の美形、と書かれていますが、文を追う限りそんなイメージは全くなし。はっきり言いましょう。変なにーちゃんです。薔薇の香りむせ返るナルシスティックな「銀河ワールド」が降臨した瞬間、全てシチュエーションが無に帰してしまう、歩くリセットスイッチ。おいしいキャラとは彼の様なキャラをさすのでしょう。
熱血教師・森田正義。恐るべきクリティカル・ヒット成功率を誇り、ケルベロス36匹を屠る、凄腕の忍者。しかし、熱血言動とすぐ脱ぎだすくせが目立ち過ぎます。今日も全裸でクリティカル・ヒット。熱血ってこんなに面白かったのか、と思わせる様なキャラクターですね。

Series

このシリーズで他に刊行されている作品はないので、火浦さんの代表的なシリーズをふたつ紹介。
未来漂流ガルディーン」(角川書店スニーカー文庫)は、男みたいに育ったお姫様が、荒野を旅する、ロボット戦闘もの×珍道中もの。大まじめなキャラクターを高みから見下ろしてくすりと笑うような火浦節が楽しめます。
美少女マッドサイエンティストの豪田みのりが主人公、「みのりちゃんシリーズ」(ハヤカワ文庫JA)は刊行がかなり古いので、さすがに手に入りにくいかも。どこに辿り着くか分からない、ジェットコースターのようなノリのストーリーが面白く、抱腹絶倒のシリーズです。

Guide

ちょっと古目のギャグを使ってるので、若い人には辛いかな?そうじゃなくてもテンションの高さ故について行けないようなギャグもあったりしますし、まぁ、文章の100%を理解しようとするよりも、乗りと勢いで読み流すのが正解でしょうね。
ひっかかったときは、あとがきでの作者の言葉じゃありませんが、「そーゆーものだ」と流しちゃう方向で。考え過ぎては負け。大雑把に読みましょう。

2002.11


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