ファイナル・セーラー・クエスト 完全版

(火浦功/角川スニーカー文庫)

ハイテンションモードへ

Story

20世紀末、東京世田谷にダンジョンが発見された。土地有効活用のためにダンジョンは開発され、商店街やオフィスが建設された。そして地下十階には高校も。
その高校に瀬戸内から転向して来たのが、方向音痴の永井のりこ。さっそくのりこはトラップにひっかかって命を落としそうになり、さらにはモンスターの餌食となりかける。
果たしてのりこは、モンスターが蠢き、小林旭がパーティーを組み、忍者が全裸で駆けだし、カーネル・サンダー攻撃が炸裂するこのダンジョンで生き延びることが出来るのか!
火浦功のハイテンション・スラップスティック・アドベンチャー。

Impression

 かなり以前から、若者向けのギャグSFを著して来た火浦さんの短編集です。最近はライトノベルというジャンルが充実して来たこともあり、この本も近年の他作品同様、ライトノベル文庫の枠に収められていますが、自分の世界を持つベテラン作家らしく、昔の「ヤングアダルト」層にアピールするような芸風を貫いています。
 その芸風とは、この作品で言えば「学校がダンジョン内にあって、そこに方向音痴の転校生がやってくる」という誰も考えつかない様な突拍子もない設定と(もちろんこれをシリアスにやってしまったらシャレになりませんので)、それをささえるマシンガンの様なギャグの連発。
 不条理ぎりぎりの、理論的な説明なしに繰り出されるすっとぼけ系の小ネタ、ウイットに富んだやりとり、若者を置き去りにした高度成長期ギャグ。ひとつひとつのネタを取り上げれば「?」と思う部分もあるんですが、それをテンポのよい軽めの文体に乗せ、マシンガンのように連射してくるので、いつもハイテンションなムードが漂っていて、気がつくと、たいして面白くもないはずの小ネタで爆笑してしまう、そんな名人芸を堪能出来ます。

2002.11


top page