(及川輝新・Enuni/電撃文庫)
社畜歴5年め、感情を表に出さず他人に関心を持たない主人公・種村悠は、自宅のひとり酒でストレスを発散するのが趣味。
だがある日、初めてのひとり呑みを決行しようとして訪れた新宿で、妹属性の後輩、営業部の芹沢春がナンパされて困っているのを目撃する。
思わず春を助けた悠はその場の流れで行きつけの居酒屋に春を連れていくが、そこで目撃する。妹属性の仮面をかなぐり捨てて次々とトマトサワーのジョッキを空け、激しく酔っぱらいながら会社の愚痴を吐き散らかす春の姿を。
そしてふたりきりの呑み会の後、春は悠に言うのだった。
「先輩、私と飲み友達になってくれませんか?」
酒呑み女子が出てくる作品にハズレなしッ! というのが私の持論なんですが。
その持論を補強してくれるようなうれしい作品が電撃文庫からリリースされましたよ〜。
ヒロインは小動物系というか妹系というかな会社の愛されキャラという、そのスペックだけでハイボール3杯くらいいけちゃうんですが。
しかもその後輩が実はとんでもない大酒呑みで、しかも愛らしい笑顔の裏にストレスたっぷりため込んでてアルコールが入るとそれがひたすらだだ漏れになるというこのギャップ! そんな彼女の二面性を知っているのは主人公だけというこの優越感! このシチュエーションだけでさらにお銚子3本くらいいけちゃうってもんですよ。
こんな後輩がいたら絶対会社に行くのが楽しくなるよな〜と思わせる、全酒呑み勤め人の憧れを余すことなく具現化したような大人のラブコメディ。さらに個人的な話を追加させていただきますと、ヒロインの春ちゃんが仙台出身だというのは同じく仙台生まれの私にはストライクでしたし、その春ちゃんが主人公に向けて言った言葉が、新入社員当時の私が先輩に言われた言葉と同じだった、ってのもクリティカルで、読んでてお酒が進む進む進む。
さらに作中ではふたりがひっきりなしに呑んでいて、ギネスだのトマトサワーだのグレンフィディックだのスタウトだのおいしそうなアルコールが次々と登場し、鴨のたたきだのフィッシュアンドチップスだの牛串だのポテサラだの蜂蜜カマンベールだのおいしそうなつまみが続々繰り出されるものですから、読みながらチューハイを3杯4杯呑んでても全然追っつかない。
ラブコメ的にもお酒的にも「ああっ、ウチにもこんな後輩が欲しかったッ!」「俺もこんなサラリーマン生活送ってみたかったッ!」と今池の夜空に遠吠えを上げたくなるようなシチュエーションが山盛り三種盛りてんこ盛りで、最後はアルコール漬けになった頭でぽかんと虚空を見つめ、「いいなあ……」という感想しか出なくなってしまいます。
……しかしまあ酒呑み的には、キャラクターよりもシチュエーションよりも、このふたりの底知れない胃袋と肝臓の方に憧れちゃうような気もしますけどね。
くりっとした瞳、ちょっと丸っこい鼻、薄い桜色の唇、明るい茶髪のショートボブで、街を歩けばナチュラルにナンパされるような小柄な美少女。
どこか小動物を思わせるちょこまかとした動きと、目上の人にも遠慮のないコミュニケーションの、愛され系の妹キャラ。
こんな後輩が会社にいたら、満員電車で通勤するのも全然苦にならないのになあ〜と全国一億三千万社畜の皆様を遠い目にさせる理想の営業部員、それが本編のヒロイン・芹沢春ちゃんです。
どこか子供っぽいところのある女のコで飲み会は原則不参加、たまに顔を出しても飲むのはソフトドリンクというそのへんもまた守ってあげたくなるポイントだったりするんですが。
はい、それはソトヅラだけの話です。
その正体はトマトサワーをぐいぐい行っちゃう、ガンガン開けちゃう、なんならストロング缶にまで手を出しちゃう天下無双の呑み助女子。かわいくほろ酔いなんて言う段階は秒速で通過して泥酔モードに即座に移行、居酒屋のカウンターにトマトサワーのジョッキを叩きつけ、大声で愚痴を吐き毒を吐く、人間味たっぷりなヒロインなのです。
そんな彼女の二面性を知ってるのは自分だけ、一緒に呑むのは自分だけというのはラブコメの定番、と知りつつもやっぱり嬉しくなっちゃいますよね〜。
喜怒哀楽の振幅が激しいのもまた春ちゃんのチャームポイント。
全国一億三千万呑兵衛の皆様が心から「一緒に呑みたい!」と思う、理想の彼女にして理想の呑み友達なのです。
2026.5