(高橋克彦/講談社文庫・全5巻)
平安時代の東北地方にその名を轟かせた安倍一族、藤原一族の栄華、そして朝廷との戦い、滅亡のプロセスを確かな歴史考証と、多彩なキャラクターで描いた歴史小説。
仙台生まれの仙台・相馬・郡山・志津川・水沢育ち。岩手人と福島人のハーフの宮城人という純度100%東北人な私には「こでらいねぇ〜!」と南部弁で岩手山に向かって叫んでしまうほどぐぐっと来る作品です。
作中に頻繁に出てくる胆沢城は実家の近所だし。さなみに近所の「四ツ角千葉酒店」では清酒「胆沢城」も売ってるぞ。
・・・・・・と、ようやく作品紹介。
歴史小説としては結構テンション高い作品で、よいです。合戦シーンなんかほんとにわくわくする感じ。歴史物の合戦シーンは、最近はさらりと描くが、思いっきり空想の翼を広げて派手に描くかの二極に分かれているような気がしますが、この作品では数で攻める朝廷側と、地の利を味方につけた安倍一族の動きがアイディアとスピード感豊かに描かれていて楽しめます。さすがにエンターティメントを知り尽くした高橋さんの作品だけのことはありますね。
そしてぐぐっと「滅び」の美しさが胸に迫る第三巻のフィナーレと、燃え続ける炎の激しさが胸を打つ第五巻のクライマックスが心にずしんと響いて来ます。
「生き続ける」という強い意思をテーマにしたこの作品を読み終わると、東北人に生まれてきたことが誇りに思えて来ます。他の地区の人はどうか知らないけど。
ストーリーは長いわ、キャラクターは多いわで、うーん、これ!と絞り込めないんですが、やっぱり経清でしょうかね。身分は朝廷にありながら、安倍一族に傾倒していくというと、クールなアウトローという感じですが、結構シンクロしやすいキャラクターです。
泰衡もいいですね。これまで藤原一族を滅ぼした役立たずという感じで見られ、藤原一族は「藤原三代」という括りで語られていたのですが、大河ドラマ以降は泰衡を含めて「藤原四代」と呼ばれるようになりました。これも泰衡にきちんとスポットライトを当て、しっかり人物を描写した結果でしょう。スケールの大きさを感じられる魅力的な主人公です。
女性キャラクターはやはり少ないですが、経清の妻・結有や第二部で登場する吉次など魅力的できりりとした女性が出てきて、なかなか楽しいですね。
歴史に疎い人が知ってるキャラクターと言えば、源義経・武蔵坊弁慶くらいのもの。藤原三代、源義家、安倍貞任あたりも教科書に載ってると思いますが、印象薄いですよね。他のメンツに関しては言わずもがな。
というわけで、やはり歴史に興味がないと辛い部分があると思います。が、文章自体は分かりやすく、キャラクターがはっきりしていて、合戦シーンも鮮やかと、小説自体の力はしっかりした物があるので、読んでいて詰まる、ということはないと思います。