星屑

(村山由佳/幻冬舎)

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Story

大手事務所「鳳プロ」の女性マネージャー・桐絵は博多のライブハウスで抜群の歌唱力を見せていた少女・ミチルをスカウトする。
しかし、鳳プロでは専務の娘・小鳥真由をスター候補生としてデビューさせることが決まっており、博多から流れてきた名もなき星・ミチルをデビューさせることは出来なかった。
それでもあきらめきれない桐絵はゲリラ的な戦術を使ってでも、ミチルをスターとしてステージに立たせるべき奮闘する。
昭和50年代の華やかな歌謡界を舞台に、向こう見ずな女マネージャーと圧倒的な才能を持つ少女が時代を切り裂いていく、痛快芸能エンターテインメント。

Impression

いやぁ、面白い。
オビに書かれた「ド・エンタメの『スター誕生』物語」という惹句が総てを言い表していますね。
才能あふれる純情な博多っ娘・ミチルと、尻っ跳ねばかりのサラブレッド・真由が芸能界でぶつかりあうというシチュエーションからして、安物の少女マンガか、往年の大映ドラマかという感じ。だけどそのイージーさがストレスなく読者を作品世界に導き、ページから迸る若さと熱気に思わず呑み込まれてしまいます。
男社会で悪戦苦闘しつつも、とんでもないバイタリティを見せるヒロイン・桐絵も魅力的なら、鳳プロの重鎮歌手・城田万里子も要所要所でいい味を出していて、とにかく芸能界を切り裂いていこうとする女性たちのパワーとプライドに、一気に呑まれてしまうんですよね〜。
ありがちな、だけど個性的なキャラの摩擦が熱を生み、安っぽいドラマなのに、なぜこんなに熱いんだろう、なぜこんなに心が揺さぶられるのだろう、
なぜこんなに読み終えるのがもったいなく思えるんだろうと思いながらラスト438ページまでノンストップで疾走してしまう、なんとも痛快なエンターテインメント作品。
少女の成長物語を読みたい方に、昭和の歌謡界を愛する方に、胸を熱くする痛快な小説を読みたい方にオススメです。

Michiru Shinoduka

本編の主人公は大手芸能事務所「鳳プロ」で男たちに伍して奮闘する女性マネージャー・樋口桐絵なんですが。
彼女と同等、いやそれ以上に眩い光を放っているのが博多からやって来たタレント候補生、篠塚ミチルなのです。
博多ロックの聖地と言われるライブハウスで、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」を、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を、「悲しみのアンジー」を英語で、しかも抜群の声量と圧倒的な歌唱力で歌いこなして見せた16歳の、青くまばゆく思いっ切りとんがった才能の持ち主。
好きな歌を歌うためなら博多の家を飛び出し東京に出ることも、東京で破天荒なステージをこなすことも厭わない、荒々しいまでの行動力の持ち主。
それでいて、世間知らずで、いつまで経っても博多弁が抜けない純朴少女という側面もあって、そのギャップになんかほだされちゃうんですよね〜。自分を東京に連れ出した桐絵のことを慕い、カルガモの雛のように頼り切っている姿なんか、保護欲刺激されまくっちゃうのです。
自分の前に立ち塞がる存在である芸能界のサラブレッド・真由に対しても物おじすることなく、時にはしかりつけてしまう真っ直ぐさがなんともまばゆい純真少女。
ページをめくるごとに光量を増していく、この西から流れてきた星屑から目が離せなくなってしまいます。

Character

本編のヒロインが、大手芸能プロダクション「鳳プロ」の女性マネージャー、樋口桐絵。短大を出て10年、男社会でたくましく生き抜いている……といえば聞こえがいいですが、その実マネージャー以下の雑用を押し付けられているうちに「行き遅れ」の「ハイミス」になってしまったというのが本当のところ。
それでもいつか自分が手掛けた才能がトップスターとして輝くことを夢見て、あきらめることを知らないタフな女性でもあります。
そんな彼女が篠塚ミチルという才能と出会い、会社の、芸能界の掟も振り切って、男社会の壁にも負けずに猛進するところが本作品の見どころ。固定観念にとらわれず、前進するためならけたぐりでもねこだましでも使ってやろうとする逞しい姿には、読んでいてハラハラしつつも応援したくなってしまうのです。
ミチルのライヴァルとなるのが、「鳳プロ」が売り出す14歳の才能、小鳥真由。本名は有川真由、「鳳プロ」の専務取締役にして往年の名ギタリスト・ジョージ有川のひとり娘というサラブレッドなのです。
中学2年生とは思えない圧倒的な歌唱力を誇り、抜群の容姿、そして天与の「華」を備えた生まれながらのスター。一方でお嬢様らしく、少しでも気に入らないこと、うまく行かないことがあると癇癪を爆発させちゃう、なんとも危なっかしいガラス細工のようなアイドルでもあるのです。
そんな彼女がミチルのライヴァルとしてぶつかり合い、そして認め合い、高め合っていくところが本作品の読みどころ。この本のラストでは、鼻持ちならない、めんどくさい小娘だと思っていた真由に、思わず声援を送りたくなってしまっている自分に気づくことでしょう。
いい味を出しているのが大御所演歌歌手の城田万里子。オーディション番組で観衆を魅了した真由に対し、さらりとダメ出しをしてみせたりする、いい意味での空気読めなさがなんとも痛快で、大物感抜群なんですよね〜。生き馬の目を抜く芸能界を泳ぎ渡り、酸いも甘いも噛み分けた上でなお、フラットに周囲を見渡して断を下せるその姿はまさに大物の風格で、芸能界の女将とでも言いたくなるほど。
ミチルとは別ベクトルで痛快なキャラで、思わずファンになってしまいます。

Official Site

2023.2


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