(村山由佳/幻冬舎)
大手事務所「鳳プロ」の女性マネージャー・桐絵は博多のライブハウスで抜群の歌唱力を見せていた少女・ミチルをスカウトする。
しかし、鳳プロでは専務の娘・小鳥真由をスター候補生としてデビューさせることが決まっており、博多から流れてきた名もなき星・ミチルをデビューさせることは出来なかった。
それでもあきらめきれない桐絵はゲリラ的な戦術を使ってでも、ミチルをスタートしてステージに立たせるべき奮闘する。
昭和50年代の華やかな歌謡界を舞台に、向こう見ずな女マネージャーと圧倒的な才能を持つ少女が時代を切り裂いていく、痛快芸能エンターテインメント。
「ド・エンタメ」と銘打っているだけに、とにかくドラマティックでスムースな娯楽作品。
博多からやって来た才能に溢れる雑草娘・ミチルと、将来を約束された良血のお嬢様・真由が正面からぶつかり合い、そこにうだつの上がらないハイミス・桐絵が巻き込まれ、あるいは自ら動くことで上昇気流を作り上げていく物語は分かりやすく、読者を容易に作品世界へと飛び込ませてくれます。
ピンチを太々しくチャンスに代えてしまう鳳プロの面々や、姐御肌で作品世界を冷静に俯瞰して見せる大御所・城田万里子など、脇役に重量感があり、巧みに作品に彩りを添えているのも嬉しい点。脇役と言えば、人気絶頂のさなかにあるセクシーな女性デュオ「ピンキーガールズ」、港町を舞台にした大人の歌謡曲を歌う「前原ひろしとドゥーワップス」、野性的な風貌が魅力の男性人気アイドル「南城広樹」などなど、同時代に歌番組に親しんだ人ならニヤリと笑ってしまいそうな名前がまさに星屑のように散らばっているのも見逃せないところ。そこがまだテレビの歌番組が芸能界の中心にあった昭和50年代という時代設定を補強していて、右肩上がりで元気になれるストーリーをさらに充実させてくれます。
熱さとカタルシス、なによりも芸能モノらしい煌びやかさに胸を灼かれるなんとも愉しい「ド・エンタメ」です。
2023.2