恋する少女にささやく愛は、みそひともじだけあればいい

(畑野ライ麦・巻羊/GA文庫・1〜2巻)

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Story

夏の終わり、本来なら翌春のセンバツを目指して鍛錬し、ユニフォームを泥で汚しているはずの夏の終わり。
練習中の事故で野球部を引退せざるを得なくなった大谷三球(サンタ)は次に打ち込めるものを見つけようと図書館を訪れていた。
そこで出会ったのは、高いところにある本を取ろうと、泣きながら背を伸ばしていた少女、涼風救(スクイ)。
彼女のために本を取ってやったサンタはやがて、“スクイより短歌に詳しい未成年なんてそうそういない”と薄い胸を張る彼女に弟子入りし、三十一文字に想いを込めるべく奮闘することになる。

Impression

テーマは短歌。
この令和の時代に。
なんとも意欲的で、魅力的な新作ですね〜。
図書館で出会った元・野球少年と、短歌少女のボーイ・ミーツ・ガール。正直、キャラクターはひねりがないですし、ストーリーも一直線でイージーなんですが、要所要所にアクセントとして短歌が挿まれることでキャラクターの心情が凝縮された形で提示され、それがなんとも新鮮に感じられるのです。
主人公・サンタが初めて短歌をひねり出すシーンは映像的であると同時に共感的で、「あ、短歌ってこうやって作るんだ」と霹靂に打たれたような衝撃があって、両腕に鳥肌立っちゃうくらいのぞくぞく感。だから、「この物語って面白そう」と思えますし、サンタのように「短歌ってすごいんだな」って思ってしまう。そしていつの間にかこの物語に影響されて、見るもの、聞くものを自然に五七五七七のリズムでまとめようとしている自分に気づいてしまうんですね〜。
そして、サンタが元・野球少年で、野球をテーマにした短歌がしばしば挟まれるのは、野球好きとしては楽しいポイント。それがいかにも「青春!」って感じで男子高校生らしさを感じさせて、サンタを、そして物語をより身近に感じさせるよいエッセンスになっているのです。だからこそ、クライマックスのサンタとスクイちゃんのやりとりはインパクト絶大で、ふたりを心から応援しつつ、自分の身体のカタチが分からなくなるまで身悶えしてしまうのです。
ロマンスの魅力が三十一文字に凝縮されて迸ってきて、貪るように読みたくなる。魅力たっぷりの意欲作です。

Sukui Suzukaze

小柄で色素が薄く、おどおどしがちでインドア趣味な内気少女!
和装アレンジの衣装に身を包み、短歌をたしなむ古風な少女!
若干夢見がちで若干妄想突っ走りがちな文学少女!
生意気なようでさみしがり屋で、自信満々なようではかなげな年下少女!
私の癖を余すことなく抉ってくるヒロイン、それが涼風救ちゃんです。作品中では「スクイ」と書かれてますので、スクイちゃんと呼ばせていただきますね。
身体がちみっちゃいだけじゃなく、コミュニケーションが苦手で常に誰に対しても丁寧語だったり、大人の女性に憧れて背を伸ばすために毎日牛乳飲んでたり、小動物系な言動がいちいち年下好きのツボを衝いてきて、その一挙手一投足に「守ってあげたい!」と両の拳を握りしめてわなわなと震えてしまうのです。
そんなスクイちゃんですが、幼いころから親しんだ短歌のことになると様相は一変。サンタの作った短歌に対してはクールにドライに容赦なくツッコミを入れてきますし、なんならマウント取ろうとしてきますし、詩織さん曰く「短歌バカ」ですし、そして口にはできない思いも五七五七七のリズムに乗せれば誰よりも雄弁に自分の思いを形に出来ちゃいますし、なんのなんの短歌のことになるとなんともビビッドな女のコになっちゃうのです。
そしてなによりもスクイちゃんを魅力的にしているのは、短歌で傷ついたにもかかわらず短歌が好きで、短歌に向き合い続けようとするその強さ、ひたむきさ。だから彼女が歌を紡ぎ続けようとすることに胸を打たれるし、ラストにサンタに贈った歌に胸を焦がされてしまうのです。

Character

本編の主人公が大谷三球(サンタ)少年。
ラノベの主人公にありがちな、陰キャでぼっちでオタクなヒーローとは真逆の、明朗快活で分かりやすい性格の野球少年……と言いたいところですが、怪我でリハビリを余儀なくされ、ユニフォームを脱ぐことになった元・野球少年なのです。
それでも考えるより先に動く体育会系気質は健在で、年下のスクイちゃんに対しても「師匠」と呼んでなつくような一本気な人の好さもスポーツ少年らしいポイント。挫折しても下を向かない明るさ、強さも印象的ですね。そんな性格が「短歌」というザ・文化会系で古風でマニアックなテーマといい化学反応を起こしてくれているんですよね〜。そして体育会系的な朴訥さは年上にも年下にもイジられるいいキャラクターになっていて、そこがなんというか天然の女たらし、人たらしになっています。
涼風家で住み込みの家政婦を務めているのが藤原詩織さん。家政婦とは言いますがアイドル顔負けの美貌を誇る花の女子大生。そしていたずら好きで人をからかうのが好きで、ターゲットは涼風家のお嬢様であるスクイでも初対面のサンタでもお構いなしという、なんとも厄介でなんとも食えないお姉さんなのです。そんな詩織さんだけに、おとなしいキャラクターが多い当作品にとっては貴重なひっかきまわし役であり、貴重なエンジン役。そして詩織さんがいかにしてスクイやサンタを振り回すかが、この作品のひとつの見どころだったりするのです。
サンタと同じ学校に通う先輩が月島手毬先輩。長い黒髪に長い脚、高校生と思えないほどに大人びた才色兼備の先輩で、色素薄めで小動物っぽいスクイちゃんとはいいコントラスト、ということはいい恋敵なんですね〜。スクイちゃん、そしてサンタとの共通点はというと、手毬先輩もまた短歌を嗜み、情熱を傾けているということ。スクイちゃんとは違う角度から短歌にスポットを当てる、ナヴィゲーター的な存在でもあります。

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2025.3


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