(畑野ライ麦・巻羊/GA文庫・1〜2巻)
夏の終わり、本来なら翌春のセンバツを目指して鍛錬し、ユニフォームを泥で汚しているはずの夏の終わり。
練習中の事故で野球部を引退せざるを得なくなった大谷三球(サンタ)は次に打ち込めるものを見つけようと図書館を訪れていた。
そこで出会ったのは、高いところにある本を取ろうと、泣きながら背を伸ばしていた少女、涼風救(スクイ)。
彼女のために本を取ってやったサンタはやがて、“スクイより短歌に詳しい未成年なんてそうそういない”と薄い胸を張る彼女に弟子入りし、三十一文字に想いを込めるべく奮闘することになる。
「第16回GA文庫大賞 金賞」を受賞した本作品ですが、実はストーリーに突出したところひねりもなく、キャラクター配置は教科書通り、新人の作品としては読みやすいと見るか、新人ならばもう少し突き抜けたところを見せてほしいと見るか、微妙な作品ではあります。
が、この作品をこの作品たらしめ、他の作品と一線を画すフレーバーとなっているのが「短歌」というテーマ。
そのテーマから外れることなく、いちいち短歌が挿し込まれてくる実直さには好感が持てますし、主人公・サンタの作る短歌には光るセンスを感じさせるものがあれば、ああと天を仰ぎたくなる駄作も交じっていて、そのへんが作品にいいリアリティを持たせています。
主人公・サンタを、想いを三十一文字にまとめるくらいなら先に体が動いてしまうようなスポーツ少年とし、内気な短歌少女のヒロイン・スクイと対比させたのは効果的。ただコントラストが鮮やかなだけでなく、スポーツ少年が短歌と奮闘する様が読者の共感を誘い、主人公の好感度を上げる効果につなげています。
それらの効果によって、この令和のライトノベルに、平安時代のような歌を贈りあうという文化を出現させ、それを無理なくクライマックスに繋げて盛り上げる手際もまた鮮やか。むしろ、ライトノベルというよりは青春小説とくくりたくなるような爽やかな新作です。
2025.3