念力密室!

(西澤保彦/講談社ノベルス)

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Story

さえない推理作家・保科匡緒(ほしなまさお)が外出から戻ると、無人のはずの部屋にストッパーがかけられ、中には見知らぬ男の死体が!
戸惑う保科と、警視庁の美貌警部・能解匡緒(のけ・まさお)を嘲笑うかのような、不可能とも思える密室犯罪。
解決の糸口は意外な方向からもたらされた。
事件の翌日、保科の部屋を訪れた、和服の少女・神麻嗣子(かんおみつぎこ)は事件の時、「この部屋でサイコキネシスが観測された」と保科に告げる。そして、「保科さん、わたしはあなたを“補導”します」とも・・・

Impression

さて。
講談社ノベルスの背表紙を見てみますと。
「念力密室!神麻嗣子の超能力事件簿」の文字が。
となると、読む前から「うーん、ヒロインの嗣子ちゃんが鮮やかに謎を解き、超能力を使って凶悪犯を懲らしめる、そんなハナシなのだな」という期待が高まってしまうのですが。
実は全然違います。
嗣子ちゃんは超能力者じゃないし、探偵役も嗣子ちゃんではなく、さえない中年小説家の保科匡緒。じゃあ念力は、超能力はどこに出てくるのかというと、これが犯人が超能力を使って密室を造ってしまうという、こういう趣向なんですね。期待外れもいいところ。
なんといっても犯人が念力で密室を作ると分かってしまっては、ミステリーとして邪道を通り越しては興ざめもいいところ。見どころは全くないような大外れ作品のプロフィールを持った作品なのです。
が。
犯人の使う「念力」にはある程度の制限があり、それがこのミステリーを、緊張感のあるパズラーたらしめているんですね。犯人は分かってる。念力を使っているのも(嗣子ちゃんの所属する「超能力者問題秘密対策委員会」の活動によって)明らかになっている。だけど、諸般の事情により、密室を作る条件がそろわない。そこをどう解くか。そういう、極めて論理的なアプローチをした、SFの顔をした本格パズラー作品なのです。
それだけでは理数系過ぎてつまらなくなるところですが、そこはほえほえした嗣子ちゃんのキャラクターで中和し、保科・嗣子・女警部の能解匡緒が作る微妙な三角関係がほどよい緊迫感・コミカル感・萌え感を提供して、やっぱり見かけどおりの楽しい作品になっているのです。
ミステリーというジャンルにはミスマッチな印象のある水玉蛍之丞さんのイラストも、この作品に関してはこれ以外にない!と思えるほどにフィット。
軽い表面に似合わない、たっぷり楽しめる内容みっしりのミステリー作品です。

Tsugiko Kanomi

「超能力者問題秘密対策委員会」の構成員にして、「簡易超能力キット」を操り、超能力不正使用の現場に参上、警視庁の敏腕女警部・能解匡緒と連携して、悪を退治する!
となるとなかなかかっこいいヒロイン像が描かれるんですが。
実は全然違います。
またかい。
「超能力社問題秘密対策委員会(略称・チョーモンイン)」の構成員なのは確かだけど、「出張相談員(見習)」だし、「簡易超能力キット(略称・カンチョーキ)」を使うけど、使える能力はどーにもショボいし・・・括弧内の言葉がいかにもショボショボ感を誘ってるし・・・
さらに能解警部とも連携してると言えばかっこいーけど、なんかいいようにあしらわれてるし・・・
そんな、ちょ〜っと情けない感じのヒロイン。
さらに風体は着物に袴、白足袋に風呂敷という大正ロマネスクスタイル、みつあみ・リボン付き。丁寧語を離さない、クラッシックな物腰、中学生のような顔だち、ぷっと拗ねた顔も、地団駄踏んで見せる姿もたまらなくかわいらしい愛らしさ。他人の恋愛のことになると白熱する「恋愛原理主義者」っぷり。おまけに挿絵は水玉蛍之丞!!!!!
来るでしょ?来るでしょ?来るでしょう?
構いたくなるでしょう?守ってあげたくなるでしょう?抱きしめてしまいたくなるでしょう?
ミステリー界に置いておくのがもったいなくなるほどのかわいい系ヒロイン、それが神麻嗣子嬢なのです。
これ以上語ることはありません。活字を追うごとにこみ上げてくる嗣子ちゃんの愛らしさ。あとは自分の目で確かめてください。

Charactor

この作品の探偵役は、さえないミステリー作家、保科匡緒なわけでして、どことなくというかあからさまに作者の西澤さんを想起させる楽しいキャラクターなんですが、まぁ、若白髪のさえない男を紹介しても仕方がないので、嗣子ちゃんとならぶ魅力的な女性陣を紹介しましょう。
能解匡緒警部は「重力に思い切り逆らう胸やタイトミニから覗く太腿もダイナミックな、プレイメイトも真っ青な極上ボディ」の持ち主。短髪眼鏡の切れ味豊かな風貌。嗣子ちゃんよりもこっちの方が「来る!」という男性も多いことでしょう。頼り無い嗣子ちゃんや保科に対して喝を入れる貴重な存在なんですが、かといって無味乾燥なドライレディというわけでもなかったりするところが警部の味。嗣子ちゃんにとっては憎めないライバルですね。
「念力密室!」には出て来なかったと思いますが(記憶曖昧)チョーモンインからの第二の刺客、ツッコミ系ボーイッシュ少女の神余響子ちゃんも嗣子ちゃんとのコンビでいいキャラ出してくれてますね。

Series

2002年10月現在で「幻惑密室」「実況中死」「念力密室!」「夢幻巡礼」「転・送・密・室」「人形幻戯」の6冊が刊行されているこのシリーズ。「幻惑密室」「実況中死」は長編、「夢幻巡礼」は番外編的作品で、残るみっつが短編集。ロジックの鮮やかさとキャラクターを味わうなら、短編集の方がオススメ。西澤さんらしい推理の二転三転を味わうなら「実況中死」。ちょっとネタが分かりやすい気もしますが。
ちなみにストーリー仕立てになってるこの作品、時間軸的には「念力密室*」「幻惑密室」「死体はベランダに遭難する*」「鍵の抜ける道*」「実況中死」(*は「念力密室!」収録作品)の順になってまして、ストーリーが気になる方はこの順に読むのがベストでしょう。

Guide

トリッキーな設定が持ち味の作品で、ある程度整理しながら読み進めないとちょっと難しいかもしれません。また、語り手がエピソードによって変わることもあり、嗣子ちゃんの出番も多かったり少なかったりで、「萌え」狙いで読むのも意外と難しかったりします。
短編の割には腰を落ち着けて読んだ方がいい本、と言えるかもしれません。特に文系の方にとっては。


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