大阪マダム、後宮妃になる!

(田井ノエル/小学館文庫キャラブン!・1〜3巻)

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Story

凰朔国の豪商・鴻家の令嬢、蓮華には前世の記憶があった。日本という国の大阪という都市に住むアラサー独身女子で、阪神タイガースが日本一となり大阪じゅうが沸き立った夜、カーネル・サンダースの身代わりとして戎橋から道頓堀に落ちて亡くなったという記憶が。
そんな蓮華は父の期待を受け、皇帝の妃となるべく後宮に送り込まれる。とはいえ根っからの関西気質の蓮華が後宮で大人しくしていられるわけがない。持ち前のおせっかい気質と行動力、そして傾きかけた実家の店を立て直した経営手腕を武器に、大阪マダムが封建社会に殴り込みをかける!

Impression

いわゆるひとつの「キャラクター文庫」というジャンルの本。今まで私にはあまり縁がなく、これからも縁がないんだろうな〜と思っていたんですが。
書店でうっかり目に入ってしまいました。「大阪マダム、後宮妃になる!」というタイトルが。そのままうっかり本をレジに持って行ってしまいました。
ヒロイン・鴻蓮華は前世、大阪でたこ焼き居酒屋の雇われ店長をしていて、オカンに大阪マダムとしての生き方を徹底して叩き込まれ、そして阪神タイガース優勝の日に、カーネル・サンダースの身代わりとして道頓堀に散ったという、コッテコテにも程があるやろ! というプロフィールの持ち主。
これだけでも「何や、そりゃ!」と突っ込まずにはいられないんですが、その大阪マダムが中華風の異世界に転生し、後宮に皇帝のお妃になるべく送り込まれるというんですから、もういくらハリセンでツッコんでも足りません。
遊び人の皇帝と、やり手の皇太后が対立し、さらに皇帝の亡兄の影がちらついたり、権力や利権をめぐる謀略が蠢いたりとストーリーラインは完全に後宮ファンタジーのそれ。なのに蓮華は後宮を虎柄に染め上げ、ソースの匂いをまき散らし、しまいには野球の後宮リーグ「コ・リーグ」を設立しとやりたい放題で、煌びやかな中華ファンタジーワールドをコッテコテな関西コナモンワールドに染め上げてしまってしまうのです。
関西人のおおらかさとブレなさが、中華後宮の華やかさ、権謀術数と混ざり合ってできた、唯一無二の化学反応がなんとも楽しく、ひたすらに痛快な作品。
戎橋の真ん中でグリコネオンを見上げつつ、心の底から「何やねん、こりゃ!」と叫ばずにはいられない愉快なニューウェーヴ。
奔放な大阪マダムが繰り広げる痛快譚を、たっぷりお楽しみください。

Renka Ko

本編のヒロインが鴻蓮華、後宮での呼び名は鴻徳妃。後宮でも最上位の正一品に位付けされた、シュッとした美貌の商家の令嬢。
なんですが。
その前世は大阪のアラサー独身女性で、前世の記憶をそのまま生かし、上品な後宮にかかわらず大阪弁丸出しでエネルギッシュに動き回る、そこがなんとも痛快なヒロインです。
パンチパーマの紫髪がトレードマークのオカンに英才教育を施された清く賢い大阪マダム。阪神タイガースが日本一になった夜、カーネル・サンダースの身代わりとして戎橋から道頓堀に落ちて死んだたこ焼き居酒屋の雇われ店長で、懐にはいつも飴ちゃんという、ソースの匂いがこびりついて離れなさそうなコテコテすぎるプロフィールの持ち主。
中華風の「凰朔国」の商家に転生しても、後宮で皇帝の妃候補となっても委細構わず、野球はおっぱじめるわ、お好み焼きは焼き始めるわ、後宮を虎柄に染め上げるわ、大阪マダムらしいブルドーザーのような行動力で突き進む姿がなんとも気持ちいいんですよね〜。
そして人情に厚く、困っている人を見るとおせっかいを焼かずにいられないところも大阪マダムらしいプロフィール。
御堂筋のようにまっすぐで、たこ焼きのように熱々な、人間的魅力にあふれたヒロインです。

Character

本編のもうひとりの中心物となるのが天明さん。凰朔国の皇帝さんです。
父である先帝、そして兄を亡くし皇帝の座に祭り上げられた次男坊。しかし政治にも権力にも無関心で、政は母である皇太后に任せっぱなしというなんとも頼りない皇帝さん。何ですが。実は。というキャラクターです。
堅物のように見えて食えないところがなんとも魅力的。その斜に構えたようなキャラクターが、蓮華の飴ちゃんに篭絡され、お好み焼きにほだされて、蓮華の無茶を理解できないと思いつつ、呆れつつも理解してしまう、そのへんのプロセスが「兄ちゃん、苦労しとんのやなぁ」と同情を誘ってしまいます。
苦労人をもうひとり。蓮華の侍女をしているのが陽珊。関西魂に裏打ちされた蓮華の突拍子のない行動をなんとか引き留め、蓮華の関西弁を矯正し、なんとか後宮妃にふさわしい立ち居振る舞いをしてもらおうと努力している常識人なんですが。残念ながら無駄な努力です。むしろ蓮華と陽珊のかけあいがボケツッコミのリズムにまんまとハマっていたりします。巻を追うごとに蓮華に染まり、関西人っぽくなる陽珊の姿を見ると、「関西人は伝染る」という言葉を思い出す。自分も域外から関西に移った経験があるので、陽珊には同情を禁じ得ません。
後宮における蓮華のライヴァルのひとりが陳夏雪。プライドが高い典型的なお嬢様で、典型的なツンデレ気質。それでも努力を惜しまず、新しいことにも敢然と挑戦する生真面目さがどこか爽やかなんですよね〜。蓮華とは好対照ながらなかなかの名コンビだったりするのです。
2巻から登場するのは傑。こちらも蓮華と好対照なプロフィールの持ち主ですね。2巻からの登場なのであまり詳しくは触れませんが、蓮華が村山、江夏ならこちらは王、長嶋という役どころ。メリハリの効いた関西気質の蓮華に対して、こちらは気っ風のいいべらんめぇで、頭より手が先に出るような性質。実にいいコントラストを描いていて、脇役にしておくには惜しいようなキャラクターの持ち主です。

Guide

ついて来れへん人はついて来んでええよ、とばかりに大阪ネタがたっぷり詰め込まれた一冊。大阪の描かれ方がステレオタイプでしかもディープなので好みは分かれそうです。
作品の冒頭がいきなり「理想の男性……そりゃあ、バースですわ」から入るような作品で、後宮モノなのに野球(主に阪神)ネタがふんだんに盛り込まれているところが特徴。野球好きなら案外そこからすんなりと作品世界に入れるかもしれません。

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2021.11


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