(田井ノエル/小学館文庫キャラブン!・1〜3巻)
凰朔国の豪商・鴻家の令嬢、蓮華には前世の記憶があった。日本という国の大阪という都市に住むアラサー独身女子で、阪神タイガースが日本一となり大阪じゅうが沸き立った夜、カーネル・サンダースの身代わりとして戎橋から道頓堀に落ちて亡くなったという記憶が。
そんな蓮華は父の期待を受け、皇帝の妃となるべく後宮に送り込まれる。とはいえ根っからの関西気質の蓮華が後宮で大人しくしていられるわけがない。持ち前のおせっかい気質と行動力、そして傾きかけた実家の店を立て直した経営手腕を武器に、大阪マダムが封建社会に殴り込みをかける!
ノベル、コミックを問わず異世界転生ものが流行りだして永らく経ち、いろいろシチュエーションを捻った転生ものが乱立して食傷気味の昨今ですが、その中においてもなお「このテがあったか」と膝を叩いてしまったのがこの作品。
中華風の異世界後宮に大阪のアラサー女子を転生させ、大阪と中華をミックスさせるというシンプルかつカオスなシチュエーションがなんとも面白いですね。
ヒロイン・蓮華は明るく気さくでおせっかい焼き、阪神タイガースと吉本新喜劇と粉モンが大好きという、いかにもステレオタイプな「大阪マダム」。その「いかにも」さで関西以外の読者にキャラクターを分かりやすく提示する一方、関西ネイティヴの読者に対しては新喜劇だったり大阪の地理だったりコアな小ネタも散りばめてきて、分かる人だけくすりと笑える、関西人のプライドをくすぐるような部分を忍ばせていてそのへんのつくりは達者です。
それでも権謀術数うずまく後宮や宮殿での駆け引きはしっかり練られていてムード満点で読ませますし、ストーリーは全般にロジカルで、ファンタジーというよりはミステリのような趣。そこに豊富かつ個性が際立ったキャラクターがきびきびと立ち回ってストーリーをなぞるだけでも飽きません。
そこにブルドーザーのような破壊力を持ち、後宮を黄色と黒に染め上げ、ソースの匂いをまき散らすヒロイン・蓮華がド派手に立ち回るんですから、作品世界はあくまで陽性で、華やか。中華×大阪のワンアイディアをしっかり煮詰めたこってり系の楽しさを堪能したい作品です。
2021.11