継母の連れ子が元カノだった

(紙城境介/角川スニーカー文庫・1〜4巻)

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Story

中学時代恋人同士だった伊理戸水斗と綾井結女は、なんの因果か親同士の再婚により、高校入学と同時に義理のきょうだいとなり、同じ屋根の下に住むことに。
地味キャラを脱し才色兼備の優等生として高校デビューを果たした結女と、あいもかわらずクールに孤高を貫く水斗、中学時代と違うふたりはもうお互いを意識していないはずだったが……。
「相手を異性として意識したら負け」という“きょうだいルール”を作り、きょうだいになろうとするふたりだが、そのルールはすぐに揺らぎ始める。

Impression

親の再婚で義兄妹になった、ってシチュエーションのラノベやマンガ、たくさん読んできたんですが!
このサイトでもいくつか紹介していますが!
この作品は、その義兄妹(いやどっちが兄で弟で、姉だか妹だか判然としないんですが)が別れたての恋人同士だった、というひとひねりがポイント。当然「きょうだい」という関係にもなじめてないし、もちろん「赤の他人」というわけでもなく、「恋人同士」だったころの残り香が漂っているという状況でひとつ屋根の下に暮らすわけですから、これで何も起きないわけがない!
そこを水斗の一人称パートと結女ちゃんの一人称パートを交錯させながら、ふたりの内心を描いてくれるあたりが実に小憎らしいテクニック。これでもかとばかりに矢継ぎ早に、ひとつ屋根の下でのじれったいシチュエーションが続くんですからそりゃあもう身悶えせずに読み進めるのは不可能で、しまいにゃ「もうお前らつきあっちゃえよ……てかつきあってたんだっけか」とツッコミのひとつも入れながら悶絶したくなります。
読書好きとしては、ふたりの共通の趣味が読書というのも高ポイントで、本にまつわるエピソードが次々と出てくるのも別の意味でにやにやしちゃえるポイント。ちょこちょこと京都市街地の描写が入ってくるのも、元(似非)関西人としてはニヤリとさせられますねえ。
背中がぞわぞわする甘ったるさを徹底的に堪能できるオススメ度の高いラブコメです。

Yume Irido

黒髪ロングの清楚なルックスに抜群のプロポーション。入試トップの明晰な頭脳。口を開けばぽんぽんと悪態が出てくるのに、油断してるとすぐにデレる典型的ツンデレ体質、ついでに趣味は読書。まさにヒロインオプラノベヒロイン、といった感じなのが本編のヒロイン、伊理戸結女(旧姓・綾井)ちゃんです。
なんでも理詰めで畳みかけてくるわりに肝心のところで感情がそれを上回ってオーヴァーヒートしちゃったり、ルックス通りのクールな完璧超人なのに時折どこか子供っぽくて守ってあげたくなっちゃったり、理屈がヘンな方向にねじ曲がっちゃったり負けず嫌いがヘンな方向に暴走した挙句突拍子もない行動に出ちゃったり、時折愛が重すぎて若干引くというか、暴走しすぎて若干怖いというかなところがあったり、パーフェクトできれいなガラス細工のようでいて、その実すごく華奢で壊れやすいガラス細工。だからなんとなく放っておけなくて、振り回されるのも悪くない、そう思えちゃうヒロインなのですよね〜。
思春期のかたまりみたいな、あぶなっかしくてパーフェクトな女のコ。
やっぱりラノベのヒロインはこんな二面性を持ってなきゃ。
そういう意味でもやっぱり、ヒロインオブラノベヒロインだと思えちゃうのです。

Character

本編の主人公が伊理戸水斗くん。クールな完璧超人のように見えて、その実ただの面倒くさがり。ツンデレ気質は結女ちゃんとどっこいどっこいで、まぁ割れ鍋に綴じ蓋というか、いいカップルだしいいきょうだいだと思えるんですよね〜。完璧超人という読者には共感度低そうなキャラクターでありながら、どこかダルげだったり、本のことになると熱くなっちゃったり、そして結女ちゃんには結局優しかったり。読者に共感度の高そうな主人公だったりします。
水斗と結女ちゃんのクラスメイトが、南暁月ちゃん。ポニーテイルがトレードマークのちみっちゃ活発系小動物型女子なんですが、陽キャに見せかけて実はとんでもなく深々とした闇を抱えたりしていて、なかなか味わい深いキャラだったりします。
2巻から登場の東頭いさなちゃんはピュアすぎシンプルすぎ行動がナナメ上すぎで次の言動が全く予想つかない異星人系女子。基本的にはしっとりめ、切れ味重視のラブコメなこの作品ですが、ピンボールみたいに予測不能ないさなちゃんが登場すると、破壊力が増しますね〜。結女ちゃんとは対照的なパワーヒッターで、いいライヴァル(なのか?)です。

Guide

もうタイトル通りのシチュエーションで、そういうシチュエーションがお好みの方は黙ってレジへGOです。
再婚家族の小難しいリアルとか、大きな波風とかもなく心地いいテンポで進む作品なので気軽にページをめくれますね。
ただ、時折にやにやが止まらなくなったり、悶絶しながらごろごろ転がらずにはいられないシーンも含まれていますので、周囲に人がいないか確認してから読んだ方がいいでしょう。

2020.7


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